ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

買い場は夏場か。

前週は各国中銀動向に投資家の注目が最も高まった週であったのは間違いない。直前の米国CPIが40年ぶりの想定外の数値を示しFRBは0.75%の利上げに踏み切った。0.75%の上げ幅は1994年11月以来27年ぶりである。パウエルFRB議長は景気の軟着陸とインフレ抑制に自信を示すものの、翌日のNYダウは大幅に下落し1年5カ月ぶりに30000ドルを割れこんでしまった。インフレ抑止への期待より景気悪化懸念が大きいという市場心理が強く出たともいえ、FRBの本懐は「物価と雇用」の安定にあるということを改めて意識させられた。

現状のFOMC参加者が予想する政策金利(ドットチャートの中央値)は22年末で3.4%、23年末で3.8%。現状のFFレート誘導目標は1.50~1.75であることを踏まえると、今年のFOMCは残り4回(7,9,11,12)、パウエル議長の発言から7月は0.75%の利上げが既定路線となりつつあるので、22年末には大方の利上げが完了している公算が高い。それと同時に発表された経済見通しで年末にかけてGDP成長率、失業率に対しては強気な姿勢が堅持されていたため、更なるインフレが想定外に進まないのであれば、FRBの計画通りに利上げサイクルは進むと思われる。

ただしリスク要因として残るのが、FRBの読みが外れているケースである。「ビハインドザカーブ」と言われるが、対応が完全に後手に回っているという指摘があり、今までの見通しや読みは外れている。実際に3月時点でのドットチャートは1.9%、現時点で既に1.5%上振れている。

ヨーロッパではECBも7月で量的緩和の終了を決定し、0.25%の利上げに踏み切る方針を示した。イングランド銀行も5会合連続での利上げ、そしてそれ以上のサプライズはスイス中銀の15年ぶりの利上げで、FRB同様に事前の利上げ予想幅を上回っての決定であった。日銀がスイス国立銀行の方針転換を受けて、堅持していた金融政策に修正がかかるのではないかという懸念が生じ、131円台まで円が買われた。その後注目された日銀金融政策決定会合では大規模緩和継続が発表され135円まで急速に戻した。

日本だけが世界的な利上げの波に流されず緩和を継続する形となっている。本来であれば円安による輸出増、海外投資家の買い需要などメリットも大きいが、原材料高やインフレのデメリットの方が勝っているのが実情で、世界的な景気減速がさらに悪化するのであれば日本だけが景気が上向くとは考えられず、そもそも緩和継続をするのもコロナの影響がまだ景気を抑制しているとの理由である。いつまで日銀が持ちこたえれるのか、ETF国債への資金拠出によって株式市場や為替市場の圧力にどこまで抗い続けることができるのかは未知数で、サプライズ的な政策を好む日銀がどのような振る舞いを見せるのか黒田総裁の一挙手一投足には注視が必要である。

現在のマーケット環境に、高値からの下落率以外に買い材料を探すのは難しいが、今後のスケジュールを確認すると7月のFOMC、8月のジャクソンホール会合がターニングポイントになる可能性はある。夏にかけ電力需要の高まりや経済に原材料高が反映されていく過程で金融政策の方向性が定まり、また11月に予定される米国中間選挙、ゼロコロナ明けの中国党大会といった政治的イベントへの期待感が不透明さを払拭するものと想定される。

「閑散に売りなし」という格言があるが、夏場は取引量が細る。値動きが少なく売買が低調な時期に売るべきではないという諫言でもあるが、今夏はまさにそのような状況になっているのではないだろうか。過去数か月にわたって市場が辿ってきたように、CPIが発表される毎に大きく前提は変わる。3月以降に敏感に反応することが多くなったが、何度も期待と失望を繰り返す中で市場に耐性がついてくる。そして目先の高値は年初についたものが多い、期日向かいの売りや日柄調整といった需給の改善、第一四半期決算等のイベント通過が夏場での底打ちに繋がる可能性が高いと考える。強気相場は悲観の中で生まれるというジョンテンプルトンの格言を今こそ信じたいものである。

 

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