ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

中国の強み

中国の強みはいくつもあるが複数の点においては、その成長を可能にした要素のいくつかは既に失われたといってもよいだろう。

一例を挙げると、膨大で安価な労働力は過去のものである。生活水準や労働スキルが向上したことによって賃金の上昇が大きく、後発の新興国のほうが労働コストは安い。更に人口動態の観点からも一人っ子政策の反動と急速な高齢化の進行で労働供給量は今後下落していく。さらには今後、生産現場が自動化されていくと優位性はさらに薄らぐ。

また中国に生産拠点を移した企業も、トランプ政権時代から激化した米中摩擦を経て撤退を模索し始め、各国も経済安全保障上の理由やロシアのウクライナ進行で深刻化した政治的な理由で自国回帰を目指し始めている。

中国は巨額の公的債務や民間部門における負債の多さに問題を抱えるが、デフォルト回避のための救済策や政治的な中国恒大の分割、再編のような形で乗り切ってきた。いわば先送りではあるが、それを解決しようとすれば深刻な事態を起こしかねず、ゼロコロナ政策やインフレで傷んでいる現状からは到底抜本的な策は打てないだろう。

 

ただネガティブな要因だけでなく、IT分野やハイテク技術の向上はメリットである。半導体関連企業の採用担当から話を聞く機会があったが、中国の学生はレベルが高く、日本の学生では太刀打ちできないとのことであった。中国政府がファーウェイの世界市場からの締め出しにあって以降、半導体国産化を推し進めておりそれが成果を生みつつある。5G技術や普及に関しては欧米を凌駕している。

IT技術に関しても同様で、米国のIT圏から排除されて以降、排他的に自国テック企業との関係を強めてきた。欧米では人権侵害とされるような技術に莫大な資金を投じている。国民の監視を強めるような技術で党の支配体制を強化する狙いがあると考えられるが、顔認証や音声認識、EC等の購買履歴や、金融機関のクレジット履歴、それらをビッグデータとしてAIに分析させるということも危惧される。政治的に利用できる技術に関しての重点的な傾斜が今後も技術進歩をもたらすであろう。そしてアリババのジャックマーのように、優れた技術であっても、国の為に供出させなければならないという暗黙の了解があり、国防動員法などは外資企業も対象であるくらいだ。

かねてから言われている市場の大きさは健在で、中国指導部は「双循環」という成長戦略を打ち出している。外需への依存を減らし国内市場で完結する循環型の自律的経済基盤を創出し、市場の拡大でより中国の存在感を世界的に示すという戦略である。

ロシアのウクライナ侵攻を巡って、中国への対応がどのような帰結をもたらすのか。グローバル経済における中国の存在はロシアの比にならず、対応を誤れば悲劇的な帰結をもたらしかねない。いかに内に籠る中国を国際的なルールに引き出すのかが焦点となる。

 

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