ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

恐怖指数からみるスタグ。FRBはハト派に転ずるか

先週、NYダウが8週連続の下落となった、これは世界恐慌直後の1932年以来、90年ぶりの記録だとのこと。投資家の現金比率も2001年以来の水準になったとのことで、反発してもおかしくないという数字は増えてきている。EPS(1株益)の低下が想定されまだ予断を許さないが、S&P500のPERは16.6とのことで過去10年平均の17.1と下回ってもいる。

しかし投資家が強気になれないのはFRBの利上げやQTの過程と帰結が見えないからではないか。

1970年代のようなスタグフレーションに陥るのかどうか。物価が上昇することと経済成長停滞が同居するのがスタグフレーションということであるが、あまりにも経済的変数が多すぎるので要点を絞って考えてみたい。

 

悲惨(ミザリー)指数という数値がある(恐怖指数、VIXとは異なる)。インフレ率と失業率を足し合わせただけの簡素化された数字であるため、大まかな見通しや、トレンドを推測するのに有意であると思われる。

1970年代はインフレ、失業ともに2ケタ前後であったため、その指数は20を超えていた。一般的に10を超えると政権に対置して黄色信号で、20を超えるとレッドラインとされており、39代米国大統領ジミー・カーター(民主)が38代ジェラルド・フォード(共和)を批判するときに頻繁に使ったことで有名である。皮肉ではあるが最終的にフォードの任期中よるもカーターの任期中のほうが悪化し、80年の大統領選でロナルド・レーガン(共和)に格好の攻撃材料を与えてしまった。

その後の世界経済の変化を考えれば、恐怖指数の意味合いは薄れていっているが現在の2大懸念が物価と雇用である以上は参考になるであろう。

 

まず雇用について。直近発表の失業率は3.6%。ほぼ完全雇用に近い形で、昨年の経済の好調さと、コロナからのリオープンの恩恵を受け当面低位に安定すると思われる。

一方で米国労働省が5月11日発表した消費者物価指数は8.3%増とのことで前月から鈍化したものの依然として各商品市況は高値水準にあり予断を許さない。家庭用食品、ガソリン、新車、中古車といった項目が目を引いて高水準で、アメリカの個人消費は対GDP比で70%近い規模になるとも言われる以上、経済への影響は大きい。

インフレのピークは越えたとの声もあるが、4月の数字だけで判断するのは早計であり、当面タカ派的な発言は続くと考えられる。FRBが利上げペースを緩めハト派に転ずるにはまだ実績が上がっていない。

 

ただ、下記の理由から早晩物価上昇が落ち着く可能性もないわけではないと考えられる。

 

  • 中国の失速による需要鈍化。中国のゼロコロナ政策によって、世界的に景気減速が起きかねない。
  • 住居費上昇とローン金利上昇の影響。ローン金利の上昇から明らかにローン組成額が2022,1~2022,3月に減っている。米国における住居費の割合は30%程度であると言われており、すでに金利上昇の効果が出ている可能性がある。
  • アメリカの消費減退。先日の米小売り大手ウォルマート、ターゲットの減速は市場予想をはるかに上回っておりそれぞれ株価が20%、30%下落した。消費関連株の不調が需要減退を示している可能性がある。

これらはいずれもネガティブな材料であるが、FRBハト派に変化させる可能性がある。FRBにとっては神業に挑むようなものではあるが、リセッションであると投資家に判断される寸前で態度を変える必要性があり「景気を後退させずに、物価上昇を止める」タイミングとしてこれらの3要素の見極めが重要になると思われる。

 

これらを考慮すると、悲惨指数が20まで急騰するということは考えづらそうである。そして投資家サイドから見ると、高配当株への傾斜を強めるというのが最適な解になるではないだろうか。