ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

値上げは悪か

注目されていた消費者物価指数が発表された。コアCPI前年同月比2.1%プラスとなり、日銀のスタンスに変化はなかった。

物価のニュースを見ると、各国中銀のインフレへの危機感と国内報道による「値上げ」の温度差が大きいように感じる。

昨今、企業の値上げに鬼の首を取ったかのような反応を示すニュースが多い。我先に食料品の値上げを報じることで正義感を持った庶民の味方であるとアピールでもしているかのようである。社会的なインパクトから考えればトップラインに載せるほどの意義があるとは思えない。事実を報じることの重要性は否定しようがないが、他に報じるべき事象や論点は別にあると思う。

インフレの弊害や問題は様々な形で経済活動に悪影響を及ぼすものの「日用品や食料品の値上がりにつながるから悪い」という結論しか今の報道からは見えてこないし、スーパーの前で街頭インタビューを行えば、値上げしたメーカーが「悪」というイメージが増幅されてしまうのは当然で、企業側 からすると懲罰的ですらある。

 

この背景にあるのはおそらく

  • 商慣行
  • 長期にわたるデフレ局面の経験
  • 賃金

によることが大きいと考えられる。

「サービスして」「勉強して」とは商取引現場で使われる言葉であるが、これは「値引きしてくれ」という要請でもある。圧倒的に買い手が強く、売り手側は弱い立場であり値上げに踏み切りにくい。値引きに応じずに「他で買う」と言われてしまえば値引きせざるを得ないだろうし、値段をそのままにコスト増を企業側で負担することとなってしまう。

食料品メーカーであれば値段そのままで量を減らす(ステルス値上げ)ような実質的値上げを行えるが、社会的に容認されず批判されてしまう。

欧米企業はコスト高を平然と価格転嫁してくるが、日本においては長らく続いたデフレや賃上げが鈍かったことで、独特な消費者マインドが形成されてしまったのではないか。

日本政府が「緩やかなデフレ状態」であると認めたのは2001年。そこから10年以上に渡るデフレ下で、それに慣れ切ってしまうと安いことが当たり前になってしまう。象徴だったのがファーストフード。隔世の感があるがマクドナルドでハンバーガーが65円で買え、吉野家で牛丼が280円で食べられた。100円ショップの台頭もあり日本全体が安値競争に陥ってしまった。

それぞれの企業が生産性向上や効率化を徹底して行い、弛まぬコスト削減を継続してきたことは評価すべきであるが、それが賃上げを伴っていないとなれば問題である。2021年にOECDから公表されたデータによると、1990年以降日本の実質賃金(購買力平価)は4%しか上がっていなかった(アメリカは48%、韓国の92%に劣ってると話題になった)。

2022年4月の企業物価指数は10%の上昇となっており、いかに消費者に届く前にコストが吸収されているかがわかる。

 

しかし、昨今の値上げラッシュに見られるように、企業側の価格設定に変化が見えてきた。これには2つの要因があると考えられる。

  • 消費者の変化
  • 価格決定力、品質・サービスの向上

ESGやSDGSといった社会的な意識の高まりが、「安ければよい」から「安全で信頼できる」もしくは「環境に配慮している」といった価値変化に繋がっていると思われる。

例えば、コロナの状況下で世界一のアパレルメーカーになったファーストリテイリング。大ヒットしユニクロ知名度を押し上げたフリース販売から数年は一般的な認識として「安くて、それなり」という評価が多かったし、著書はその頃大学生であったが周囲のユニクロユーザーは寝間着、運動用に買うといった人が大半だった。しかし今ユニクロに行くと、商品は決して「安くない」「品質もよい」。永年にわたる企業努力を適切に価格転嫁できたのであろう。同じことは急成長を遂げたニトリや先に挙げたマクドナルドにも当てはまる。もはや、そこまで安くない。オリエンタルランドにしても何度と値上げを繰り返しながらもリピーターが絶えないのは、その値上げ分に価値があると消費者が判断したからであろう。

理想論ではあるが、自社の製品やサービスから生み出される付加価値に適切な評価をプライシングすれば、許容してくれる消費者はいるはず。なにより企業内留保は9年連続で過去最高で家計貯蓄も積みあがっているからである。

岸田総理のもと官製の賃上げ、各企業の思い切った値上げこれらが好循環を生み出すことに是非にも期待したい。

 

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