ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

東芝に見る、グローバル企業のスピード感

東芝株主総会が開かれファンドの影響力が改めて意識された。非上場化を目指す動きと言われるが、ここに至るまでの二転三転がより事態を複雑にしている。東芝買収の提案やキオクシア上場延期、会社分割案といった重要議題が個人株主不在のような状況で進んでは立ち消えてと繰り返されている。まさに巨大資本に振り回されているような状況である。

東芝迷走のきっかけになったのは2006年原子炉製造のウェスティンハウス買収と考えていいだろう。買収自体は重電メーカーとして京都議定書以降の温室効果ガス削減に沿った妥当な選択で、その後、東日本震災で原発に関する風当たりが強くなるのというのは予測不能である。問題は買収額が異常に高かった点にある。競合した三菱重工の2倍と言われ、後に巨額の損失を計上することになった。

そして業績不振を払拭するために不正会計に手を染めてしまったことで信頼を失ってしまった。到底達成不可能な目標を課し不正会計を指示、流行語にもなった「チャレンジ」。半導体、パソコン、映像、工事、4分野での不正が明らかになり、常態的な不正とガバナンスが崩壊していることが明らかになった。(証券業界でも上司からのノルマ引き上げというチャレンジ指示がいたる支店で行われた)

その後も経産省と連携して株主に圧力をかけるなど、不祥事が続出する中で企業としての信用も完全に失われた。

しかし、その都度発表された改革案や計画が実行されていたら企業再建の良いケーススタディになったのではないか。場当たり的対応や、後手に回る対応に経営再建の道筋や一貫性が見いだせなかったことが問題であるように思う。

例えば会社分割。3分割と発表し後に2分割に修正されたが、それ自体は有効な手段であり、コングロマリットディスカウントを払拭する格好のチャンスであったはずである。

コングロマリットにはメリットが多々ある半面で、時代の変化やニーズに追い付けなくなっているという指摘がある。

事業が多岐に渡り経営決定が遅くなる

部門ごとに情報や人材が内部に滞留してしまう

部門独特の文化が醸成されてしまう

伝統的で規模の大きい収益性の低い事業に傾斜してしまう

このような性質が新規事業創出や迅速性を阻み停滞を生み出している。

近年多発している検査不正や不祥事はこれらが要因ではないか。三菱電機の検査不正やパワハラ問題はまさにこれらの弊害が長年蓄積した結果であるとも言える。

しかし東芝で検討されていた内の1つ、会社分割を実施できれば東芝のみならず硬直し閉塞的な日本の大企業風土を変えられる案件にもなりえたのではないか。皮肉にも同じタイミングでGEが会社3分割を発表しJ&Jも2分割を発表し、2019年にはダウデュポンが3分割を実施している。いずれも伝統あるグローバル企業であり、日本企業の大半より時価総額が大きい企業である。

GEは「発電」「航空」「医療」、J&Jは「日用品」「医療」、ダウデュポンは「特殊産業材」「農業」「素材」に分割をした。潜在的な成長力がある事業が抽出され、効率性と利益率を高める動きが可能になる。またサイズダウンすることで業界内での再編に動きやすくなるという利点もある。

東芝の一悶着が、環境が激変する現代だからこそ、諸先輩方が築いた事業をつぶせないといった忖度や低収益事業が成長投資を躊躇わせるという旧来の価値観を打破する橋頭堡になれなかったのは極めて残念である。

潮流発電を国策に

今年の猛暑に伴う電力逼迫が日本のエネルギー政策の試金石になるのは間違いない。原子力とどう付き合うのかという高度に政治的な問題も当然であるが、それ以上に重要なのは再生エネルギー普及を推し進める制度とインセンティブをどう策定するかである。

化石資源に乏しい日本の国土にマッチした再生可能エネルギーをいかに定着させるか。

コロナウィルスが企業や個人にデジタル化による新常態を強いたように、ロシアのウクライナ侵攻を契機としたエネルギー危機は日本に思い切った舵取りを強いているのである。

日本は化石資源に乏しいが自然由来のエネルギー源には恵まれている。海に囲まれていることや火山帯が存在していること。そしてなにより技術力で先行している優位性がある。

先般話題になっているのは、先行3海域で入札が行われた洋上風力であるが、海洋エネルギーの利用は風力だけではない。

①潮流発電 潮の満ち引きを利用する

②波力発電 波の上下を利用する

③海流発電 海流を利用する

④海洋温度差発電 表層と深層の温度差を利用する

といった方式が今後有望である。

これらの方式によって生み出された電力コストが低減されてくるのであれば、自然エネ安定供給の脱炭素社会が一気に近づく。太陽光や風力とは違い、気候に左右されない電源になるからである。NEDOの試算によると日本の年間の発電量の1割程度、820億キロワットの潜在能力があるとのことで、2018年に海洋基本計画が閣議決定、2019年に再エネ海域利用法が施行され今後実証実験や環境整備が始まる。

現在国内勢では九州電力川崎汽船が実証のための潮流発電機設置を行っている。潮流発電は海底に土台とプロペラを設置し、引き潮の力で発電をする。潮の流れが速いほど発電量は多くなる上に、満ち引きの規則的な周期が供給予測を容易にすることができる。商船三井は波力、海洋温度差発電で先行し、IHI黒潮を使った潮流発電で中心的役割を担う。

まずは離島での急ピッチな導入が急務となってくる。一般的に離島では本土から電線を引くことが困難であるため、ディーゼルエンジンでの発電を行うことが多く、経産省によると石炭火力の2倍程度のコストがかかっているとの試算である。

クリーンであり、資源枯渇の心配がなく地球の動きそのものが動力電源である再現性は他のエネルギー源にはない特徴であるが、デメリットもある。

これらの方式における問題は地上と違い設備の大型化が難しいこと、自然環境への影響が未知数であることが挙げられる。

技術的な向上は当然のことながら、いち早い実証によるデータの蓄積、売電供給実績を上げることが急務になる。またその成果をもって、FITを他電力並みにし、洋上風力のように海域を指定することで政府としても導入普及を急がねばならない。東日本震災が原発再考を促したように、ロシアのウクライナ侵攻が日本のエネルギー政策を抜本的に見直す好機となるはずである。

 

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日銀を打ち負かせるか②

ウィドウメーカーディールという証券用語がある、直訳すれば「未亡人を作る取引」。挑んでも毎回負けてしまうような取引のことを言う。それぞれの業界で使われるワードなので、オンラインゲームのキャラクターになっていたり、医療業界では心臓発作を引き起こす主冠状動脈狭窄の俗称だそうである。金融業界では日本の財政破綻国債暴落がそれにあたる。長らく指摘されているものの今のところそれは現実になっていない。

日本の財政破綻が取り沙汰されてから久しい。金融危機の真っただ中1999年小渕総理が「世界の借金王」と自虐的に言っていた頃からすると隔世の感があるが、危惧されたことは現実にはまだ起こっていない。

株式アナリストであれば市況の読みが少しでも外れるだけで批判される一方で、日本国債暴落にかけるという一手が過去20年間トレンドから外れているともいえる。2001年2002年2011年にS&Pが格下げを行ったということで面目躍如であるかもしれないが、基調として日本国債利回りは下落し続けている。短期的に金利が急騰し債券単価が下落に見舞われたのは、1998年大蔵省資金運用部国債買い入れ停止、2003年のバリューアットリスクショック等があげられるが、何れも短期間で終息した経緯がある。

マーケットに答えを求めるのであれば日本国債は低位安定であり、日本の財政破綻という論説はGDPに対する政府債務残高の大きさが示す意味を飛躍させすぎた論理ということではないか。国債残高のGDP比は「財政の健全性」「財政の持続可能性」を計る尺度の中の一つである。

日銀の存在

財政破綻が起こる要因は多々あるが、主だったものとしては下記になる。

実体経済の悪化による税収減

不良債権の増加、バランスシートが毀損した金融機関への公的資金注入

③短期国債利回り上昇による資金調達難

国債下落による信用収縮、外国資本の引き上げ

⑤通貨安、対外債務増加

⑥経常収支の悪化

近年発生した財政破綻事象としてはロシアやアルゼンチン、ギリシャをはじめとした南欧諸国が挙げられるが、これらの要素が絡み合い、更にループして繰り返される悪循環が起こっていた。一方、日本では2011年東日本震災発生により、急激な景気低迷と財政悪化が危惧されたものの、壊滅的な状況には陥らなかった。上記のプロセスの中で日本固有の背景と事情があることが考えられる。

まず指摘できるのは買い手としての日銀の存在。2013年の異次元緩和導入以降、その消化のほとんどは日銀によってなされている。緩和以前は10%程度であったのが現状60%、ピーク時の2016年には90%近くが日銀の買い入れであった。昨今の0.25%の国債無制限購入も日銀の存在感をより強くしている。

そして保有者としての日銀の存在。現在40%を日銀が保有しており、35%が銀行・生保・損保、公的年金も入れると国内での保有率は80%以上あり、海外は15%程度しかない。国内における、企業、個人の資金余剰が滞留している状況は続いており、それが日銀の消化姿勢を担保している。つまり財政悪化における大半の懸念要素は日銀によって解消されている。

そして国債暴落説によく引き合いに出されるのが1人当たりの借金であるが、本質的に論点がずれている。国債の発行残高が1000兆円を超え、1人当たり1000万円を超えたと報道がされた。

主体が異なる以上、同列に語るべきではない。個人であればローンや負債は収入があるうちに完済するのが基本であるが、国の場合、寿命がない。

国が永続すると考えれば、国民はいなくならないし企業もなくならない。そして世界最大の債権国であることを加味すると恒常的に収入はある。同様に、国民が存在し公共サービスの実施や社会保障を行っているのであれば負債項目が存在しているはずである。ある特定の一時点を切り取って負債がゼロというのは国家としては考えられない。

個人が負債無し、企業が無借金経営であるということはあり得ても、国に借金がないという状況は現実的には起こりえないことである。あり得るとすれば超高課税国家か強権的権威国家ぐらいであろう。

経済成長力を財源に

財政健全化のための増税や緊縮財政を取ると経済は悪化する、景気を重視しようとすれば財政が悪化する。相互に影響をしあい双方を同時に採択することはできないジレンマがある。岸田政権は「経済があって財政」という立場を前提にしているが、直近の金利上昇に伴う利払費増加や、高齢化に伴う国内消化の減少、資源高騰による貿易収支の悪化、これまで良好であった需給関係が今後も持続する保証はない。財政規律を示し、それに対する財源を経済全体のキャッシュフローで埋めていくことが重要で、財政リスクを顕在化させないためには金融市場からの信認を確保しながら道筋を示すことが肝要になってくる。今はまだ国の借入れが過大であるという兆候が金利、景気等の指数で確認されていない、だからこそ先般の「骨太方針」で示された新しい資本主義下においての成長力が問われるのである。

問題は、今のペースで国債発行が続くと債務残高が金融資産を超えて累積し続けていくタイミングがいずれ来ることにある。債務残高の要因を分解すると「基礎的財政収支」「利払い要因」「経済成長要因」となるが、国として成長分野を見極め積極的な投資を行い、経済が育ち緩やかなインフレが実現するまでに、恒常的な基礎的財政収支の赤字を縮小する継続的な取り組みが必要になる。基礎的財政収支プライマリーバランス)黒字化は目標が幾度となく先送りされてきた悲願である。コロナ危機で税財源の裏付けなく拡大した想定外の歳出が重くのしかかっているこのタイミングであるからこそ、政治的に高度な判断を要する消費増税社会保障費抑制の議論が必要であり、国債発行ルールそのものに切り込み、安易な赤字国債の借り換えを許さないような自制が今後重要になる。

 

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日銀を打ち負かせるか①

6月14日にブルームバーグ「日銀が屈するまで日本国債をショートする」という記事が掲載された。ブルーベイアセットのCIOマーク・ダウディングの発言で、日銀のイールドカーブコントロールは維持不可能というものであった。

先週の日銀会合で大規模緩和継続の決定がなされ、世界の潮流に逆行する金融スタンスが明らかになって以降このような論調が増えている。

確かに昨年オーストラリア中銀がYCCを放棄したことや日銀会合直前にスイス国立銀行が想定の幅を超えて利上げに踏み切ったことからも早晩日銀が政策転換を行うという見方は整合性がある。BRICSの名付け親として高名な元ゴールドマンのジム・オニールも同様の発言をしており、マーケットでも10年物の円スワップレートは日銀が上限とする0.25%を超えている。

メディア媒体を通じた強気な発言は伝播し市場心理に影響を与えていくこともあるから、過激な発言で注目を集めるポジショントークの部分も少なからずあるように思われ、各国の金融政策が不透明な時期だからこそヘッジファンド知名度を高めることにも一役買ったことであろう。

この記事を見てカイル・バスのことを思いだした。2011~2012年に「日本売り」を各メディア媒体で公言していた。当時は2008年のサブプライム危機の後遺症が残る状況で、更に悪いことに欧州債務危機が発生している最中で、金融システムそのものや中銀への信頼が大きく揺らいでいた。その2つの危機を的中させたという触れ込みで一躍有名になったのがカイル・バスと彼の運用するヘイマンキャピタルで、2011年東日本震災で生じた構造変化に直面した日本経済に次のターゲットを定めたのである。2012年1月の日経インタビューで「18カ月以内に日本国債バブルが崩壊する」との発言を行った。その後の推移を説明するまでもないが18カ月で崩壊は起きず、2013年黒田日銀総裁の誕生と共にその可能性は消えた。その時、複数の日本国債売り要因を挙げており「公的債務のGDP比率」「貿易赤字が引き金になる財政の悪化」「人口減と高齢化」などを売りの根拠としていたが、カイル・バスとしてはショートポジションが次々と的中する中で、日本国債特有の需給関係、日銀の存在を軽視したのではないだろうか。彼のキャリアはベアスターンズ(2008年実質的破綻)、レッグメイソンでのディストレス戦略策定に携わることで築かれたものであるから、日本の経済指標や財政的指数にそれまでの投資先との共通項を見出していたのかもしれない。その後、ヘイマンキャピタルは香港ドルのドルペッグ制崩壊に賭けた投資で多額の損失を発生させている。

空売りで成功を成し遂げた投資家は大きいリターンと、既成概念から脱却し事実を見出した慧眼から絶大な名声も得られる。それゆえヘッジファンドの猛者は果敢に空売りで大企業や中銀に挑むのであろう。空売りで伝説となったジョージ・ソロスのポンド売り、エンロンを破綻に追い込むきっかけを作ったキニコスのジム・チャノス、彼らの存在が空売り投資家を後押ししている。

空売り自体が悪者扱いされることが多いが、企業や国に健全で効率的な運営を促し、不正行為を牽制する役割を持つ。また流動性の供給や適正な株価形成にも貢献している。様々な分析や運用手法があって価値観が異なるからこそ市場は機能する。

冒頭のマーク・ダウディング発言やカイル・バスについても投機を行っていたわけではなく、根拠あって投資に踏み切っているわけではあるが、日本の投資家にとっては的中してほしくはないシナリオである。

欲しがり過ぎ、嫌がり過ぎる民意への危惧

参院選が公示された。各党の公約は総じて経済的対策が主眼になっている。ロシア、中国、北朝鮮と海を挟んで対峙する国土であるから外交・安全保障も重要な争点で、岸田総理の防衛費の対GDP2%への言及があった矢先でもあり関心は高いが、あくまで有権者の家計事情に訴えかける公約が各党の力点になる。先だって行われた21日の9党首討論においては質問の半数が「物価高」「経済」に集中した。

内容は非常に空虚な論議が多かった。メディアを通した国民に対しての訴えかけが、論理的でなく心情的なものに終始していたからだ。

誰しもが給付金や補助を受けたいし、税金を下げたいと思っている。それをどのように実現するか、若しくは実行できるのかを政党間で論議した結果を審判するのが選挙であるはず。誰しもがその必要性を否定できない「子育て・教育」、誰しもが望んでいる「収入増・負担減」、この2つのテーマをセットに論調を張れば、財源確保に苦しむ与党の劣勢を国民に晒すことは容易であろう。本源的欲求を刺激するような甘言と悪役を作り攻撃することに重点が置かれる討論会はあまりに無益で短絡的である。

民主主義は人類が苦難の末に獲得した貴重な政治形態であるが、決して面白いものではない、むしろ退屈なものであると思う。自国が正しい方向に進むにはどうすべきかという重大な決断が国民一人一人に委ねられているからこそ、有権者は経済・政治・外交など様々な最新情報を集め自分の考えを持たないといけないからだ。日々勉強を重ね、知識をアップデートしていくことや他者と議論をすることは決して簡単な作業ではない。

消費税一つをとっても、税収の何割を消費税が占めているのか、この10年間の社会保障と税の一体改革とは何だったのか、確り理解した上で判断している有権者はどのくらいいるのだろうか、今の日本経済の停滞や財政状況を理解しているのだろうか。

民主主義には運営にコストがかかる。権威主義や独裁体制下では決定や判断が迅速になされるが、民主主義では時間も経済的コストもかかる。そして民主主義には質の低下というリスクがある。

既に指摘されている、少子高齢化の結果として得票率の高い高齢者に有利な政策が実施されやすくなる「シルバー民主主義」は現役世代の負担増と現役世代への投資減から経済成長を阻害することや結婚機会を奪うことで少子化を加速させる危険を孕む。負担が増え、人口構成上、声が政治に届きにくい若者は、働く者が損をしているような感覚を持つであろうし、モラルハザードを産む危険や格差社会がより拡大する可能性がある。議長のセクハラや議員のパパ活を糾弾する国会の様子が繰り返し流されているようでは、更に若者の政治的無関心を助長するであろう。

話題にするのを避けたい事案や、負担の大きい不都合なことを議論するのが民主主義の目指すべき本来の姿ではないか。昨今のウクライナや台湾、香港を見れば、いかに民主主義が尊いものかは自明のことである。安易な投票は避けるべきだし、安易な立候補も当然のことながら有権者はノーを突きつけなければならない。

普通選挙や女性参政権公民権などは市民が命を懸けて勝ち取ったものであるはずで、先人の犠牲なしには与えられなかったものでもある。決して自然発生的に生じたわけではないし、金銭的負担の対価でも資格試験を経て獲得した権利でもない。1票を無駄にする行為は民主主義自体を崩壊されることを自戒したうえでの行動をするべきである。そして、これから活発化する選挙運動で各党には今の生活を守る分配策と未来の生活を守る経済成長策を期待したい。

データセンターを国策に

ロシアのウクライナ侵攻で様々なリスクが顕在化したが最も恐ろしいのは社会インフラに直結した施設への攻撃ではないか。チェルノブイリへの攻撃は言うまでもないが、通信インフラが攻撃されるリスクも意識すべきである。

早期にウクライナ側がサイバー防衛、サイバー攻撃を前面に押し出したことで通信衛星の重要性が強調されたが、それ以上に今後危惧されるのは爆発的に増えたデータやクラウド上で多くのシステムを格納するデータセンターにおける物理的セキュリティーの重要性が今後高まってくることである。

データセンターの特徴を挙げていくと

  • 多数のサーバーを設置するため広大な敷地が必要となる
  • 使用する電力量も相当になるため電源が近くになければならない
  • 利用される都市部に近いことが望ましい
  • 保守、管理する人員や家族が生活でき、アクセスしやすい立地が必要
  • 海外からの海底ケーブルが引き揚げられる近くにあるほうが望ましい

地震津波、災害対応もなされた設計ではあるが、これからはテロ対策、もしくは立地や分散といった国防の観点からの対応も必要になってくると思われる。

そして大きく状況を変えることができる可能性があるのは技術革新である。それまでは建設が困難であった立地を有効に活用することができる新たな設置方式や世界的な電力不足を解消できる省エネ技術が発展すれば、産業、国防の観点からも利益は大きい。

先行していたのは大手IT企業でGOOGLEが2008年に海上データセンターの特許を取得、マイクロソフトは2015年にコンテナを沈め実験を行っている。利点として海水を冷却に使えることや潮力、波力、風力、太陽光など自然再生エネルギーの利用がしやすい点が挙げられる。また同社の調査では世界人口の半数が海岸から200キロ以内に住んでいるとのことで利便性も高い。

日本でも追随する動きがある。民間企業連合で開発が進んでいるのは液浸技術。空冷より効率がいいことが海水同様に当てはまるが6月21日の日経で取り上げられたのは「KDDI三菱重工NECネッツエスアイ」が開発中の液浸技術で、専用に開発されたオイルは空気の1000倍熱を奪う力がある。また故障率が下がるという副次的効果もあり、空気に触れずほこりが付きにくい、物理的な作業回数が少ない、腐食防止の窒素が酸素に触れるよりも機器への負担が少ないと考えられる。

また1970年代からデータセンター建設に携わっていた大成建設が開発している液浸技術は、小スペースでの利用が可能である。オフィスの空きスペースや制約の大きい場所に設置を行うことで、多くの電力と処理が必要とされる医療施設や今後利用が拡大してくるメタバース領域等の運用に利用されることが見込まれる。

そして自治体が音頭を取って推進するケースもあり、北海道美唄市ではホワイトデータセンター構想を策定し2010年に世界初の実証実験をおこなった。除雪作業で集められた雪を再利用しサーバー冷却に用いている。年間を通して溶けない雪を利用し不凍液を循環させている。、排熱の利用も同時に行い農産物の栽培、水産物の養殖に充てている。自然由来の素材を使い、安い土地代と排熱を利用とした二次的事業によってコスト競争力を高めるのと同時に地産地消を進めることが雇用、経済を活発化するのに一役買う好事例である。

 

これからの時代でデータセンターに求められる要件は非常に多い、ただそれらを充足する最適解を創出することができれば、それは経済的にも国防上でも国益に適うことである。国産半導体の育成と共に、国として成長戦力の一翼をデータセンターに見出してみるのも一策ではないだろうか。

買い場は夏場か。

前週は各国中銀動向に投資家の注目が最も高まった週であったのは間違いない。直前の米国CPIが40年ぶりの想定外の数値を示しFRBは0.75%の利上げに踏み切った。0.75%の上げ幅は1994年11月以来27年ぶりである。パウエルFRB議長は景気の軟着陸とインフレ抑制に自信を示すものの、翌日のNYダウは大幅に下落し1年5カ月ぶりに30000ドルを割れこんでしまった。インフレ抑止への期待より景気悪化懸念が大きいという市場心理が強く出たともいえ、FRBの本懐は「物価と雇用」の安定にあるということを改めて意識させられた。

現状のFOMC参加者が予想する政策金利(ドットチャートの中央値)は22年末で3.4%、23年末で3.8%。現状のFFレート誘導目標は1.50~1.75であることを踏まえると、今年のFOMCは残り4回(7,9,11,12)、パウエル議長の発言から7月は0.75%の利上げが既定路線となりつつあるので、22年末には大方の利上げが完了している公算が高い。それと同時に発表された経済見通しで年末にかけてGDP成長率、失業率に対しては強気な姿勢が堅持されていたため、更なるインフレが想定外に進まないのであれば、FRBの計画通りに利上げサイクルは進むと思われる。

ただしリスク要因として残るのが、FRBの読みが外れているケースである。「ビハインドザカーブ」と言われるが、対応が完全に後手に回っているという指摘があり、今までの見通しや読みは外れている。実際に3月時点でのドットチャートは1.9%、現時点で既に1.5%上振れている。

ヨーロッパではECBも7月で量的緩和の終了を決定し、0.25%の利上げに踏み切る方針を示した。イングランド銀行も5会合連続での利上げ、そしてそれ以上のサプライズはスイス中銀の15年ぶりの利上げで、FRB同様に事前の利上げ予想幅を上回っての決定であった。日銀がスイス国立銀行の方針転換を受けて、堅持していた金融政策に修正がかかるのではないかという懸念が生じ、131円台まで円が買われた。その後注目された日銀金融政策決定会合では大規模緩和継続が発表され135円まで急速に戻した。

日本だけが世界的な利上げの波に流されず緩和を継続する形となっている。本来であれば円安による輸出増、海外投資家の買い需要などメリットも大きいが、原材料高やインフレのデメリットの方が勝っているのが実情で、世界的な景気減速がさらに悪化するのであれば日本だけが景気が上向くとは考えられず、そもそも緩和継続をするのもコロナの影響がまだ景気を抑制しているとの理由である。いつまで日銀が持ちこたえれるのか、ETF国債への資金拠出によって株式市場や為替市場の圧力にどこまで抗い続けることができるのかは未知数で、サプライズ的な政策を好む日銀がどのような振る舞いを見せるのか黒田総裁の一挙手一投足には注視が必要である。

現在のマーケット環境に、高値からの下落率以外に買い材料を探すのは難しいが、今後のスケジュールを確認すると7月のFOMC、8月のジャクソンホール会合がターニングポイントになる可能性はある。夏にかけ電力需要の高まりや経済に原材料高が反映されていく過程で金融政策の方向性が定まり、また11月に予定される米国中間選挙、ゼロコロナ明けの中国党大会といった政治的イベントへの期待感が不透明さを払拭するものと想定される。

「閑散に売りなし」という格言があるが、夏場は取引量が細る。値動きが少なく売買が低調な時期に売るべきではないという諫言でもあるが、今夏はまさにそのような状況になっているのではないだろうか。過去数か月にわたって市場が辿ってきたように、CPIが発表される毎に大きく前提は変わる。3月以降に敏感に反応することが多くなったが、何度も期待と失望を繰り返す中で市場に耐性がついてくる。そして目先の高値は年初についたものが多い、期日向かいの売りや日柄調整といった需給の改善、第一四半期決算等のイベント通過が夏場での底打ちに繋がる可能性が高いと考える。強気相場は悲観の中で生まれるというジョンテンプルトンの格言を今こそ信じたいものである。

 

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