ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

欲しがり過ぎ、嫌がり過ぎる民意への危惧

参院選が公示された。各党の公約は総じて経済的対策が主眼になっている。ロシア、中国、北朝鮮と海を挟んで対峙する国土であるから外交・安全保障も重要な争点で、岸田総理の防衛費の対GDP2%への言及があった矢先でもあり関心は高いが、あくまで有権者の家計事情に訴えかける公約が各党の力点になる。先だって行われた21日の9党首討論においては質問の半数が「物価高」「経済」に集中した。

内容は非常に空虚な論議が多かった。メディアを通した国民に対しての訴えかけが、論理的でなく心情的なものに終始していたからだ。

誰しもが給付金や補助を受けたいし、税金を下げたいと思っている。それをどのように実現するか、若しくは実行できるのかを政党間で論議した結果を審判するのが選挙であるはず。誰しもがその必要性を否定できない「子育て・教育」、誰しもが望んでいる「収入増・負担減」、この2つのテーマをセットに論調を張れば、財源確保に苦しむ与党の劣勢を国民に晒すことは容易であろう。本源的欲求を刺激するような甘言と悪役を作り攻撃することに重点が置かれる討論会はあまりに無益で短絡的である。

民主主義は人類が苦難の末に獲得した貴重な政治形態であるが、決して面白いものではない、むしろ退屈なものであると思う。自国が正しい方向に進むにはどうすべきかという重大な決断が国民一人一人に委ねられているからこそ、有権者は経済・政治・外交など様々な最新情報を集め自分の考えを持たないといけないからだ。日々勉強を重ね、知識をアップデートしていくことや他者と議論をすることは決して簡単な作業ではない。

消費税一つをとっても、税収の何割を消費税が占めているのか、この10年間の社会保障と税の一体改革とは何だったのか、確り理解した上で判断している有権者はどのくらいいるのだろうか、今の日本経済の停滞や財政状況を理解しているのだろうか。

民主主義には運営にコストがかかる。権威主義や独裁体制下では決定や判断が迅速になされるが、民主主義では時間も経済的コストもかかる。そして民主主義には質の低下というリスクがある。

既に指摘されている、少子高齢化の結果として得票率の高い高齢者に有利な政策が実施されやすくなる「シルバー民主主義」は現役世代の負担増と現役世代への投資減から経済成長を阻害することや結婚機会を奪うことで少子化を加速させる危険を孕む。負担が増え、人口構成上、声が政治に届きにくい若者は、働く者が損をしているような感覚を持つであろうし、モラルハザードを産む危険や格差社会がより拡大する可能性がある。議長のセクハラや議員のパパ活を糾弾する国会の様子が繰り返し流されているようでは、更に若者の政治的無関心を助長するであろう。

話題にするのを避けたい事案や、負担の大きい不都合なことを議論するのが民主主義の目指すべき本来の姿ではないか。昨今のウクライナや台湾、香港を見れば、いかに民主主義が尊いものかは自明のことである。安易な投票は避けるべきだし、安易な立候補も当然のことながら有権者はノーを突きつけなければならない。

普通選挙や女性参政権公民権などは市民が命を懸けて勝ち取ったものであるはずで、先人の犠牲なしには与えられなかったものでもある。決して自然発生的に生じたわけではないし、金銭的負担の対価でも資格試験を経て獲得した権利でもない。1票を無駄にする行為は民主主義自体を崩壊されることを自戒したうえでの行動をするべきである。そして、これから活発化する選挙運動で各党には今の生活を守る分配策と未来の生活を守る経済成長策を期待したい。