ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

デフォルト常連のアルゼンチン国債

アルゼンチン国債は過去幾度となくデフォルトを繰り返してきた。2020年までで9回と常連と言っていい。

9回目の2020年デフォルト時は650億ドルの外貨建て債の再編が行われ、最終的に額面に対して54.8%まで減免され、投資家の保有債券は半値近くになってしまった。2018年の通貨危機IMFが金融支援を行っており、IMFは回収不能になることを避けるため緊縮財政の義務付け無しに債務減免することを民間債権者にも要請していた。また2019年に発足した左派フェルナンデスが大衆の反IMFの機運を利用し、また市場重視のマクリ前政権の失策と喧伝することで強気の交渉に臨み債権団に負担を強いた。IMFの支援なしにアルゼンチンの債権は不可能で、債権者はそれを飲まざるを得なかった。さらにはコロナの影響で連鎖的に新興国中心にデフォルトの可能性が高まっていたということも追い風になったと考えられる。

そして有名なのが法廷闘争となった2001年のデフォルト。ディストレスファンド(経営不振企業や破綻した企業の株や債券を運用対象とする)のエリオットが額面に対して約30%で国債を買い集め債務返還を迫った。交渉過程でアルゼンチン政府は75%の元本削減を実行するものの、これを不服としてエリオットがアメリカで訴訟を起こす。

アメリカの裁判所は全額の支払いを命じる判決をアルゼンチン政府に出し、これを受けてエリオットはアルゼンチン海軍の船舶や人工衛星の打ち上げ契約など、考えられないような資産差し押さえにかかった(他にもペルー政府の資産差し押さえをしたこともある)。

こういった動きに対してアルゼンチン政府は反発し、債券の利払いに応じず、アメリカ裁判所がドル建て債の利払いを停止する命令を出す。その結果2014年再度アルゼンチンはデフォルトを起こした。決着は2015年に誕生したマウリシオ・マクリ大統領(ボカジュニオールズの会長として日本でも有名)のもとで再度交渉がなされ、25%の元本削減で合意され2016年のことである。

ここまでデフォルトを繰り返すにもかかわらず、買い手がついていることに驚くが、結局のところ運用サイドからするとリスクに目を瞑っても利益を生み出さなければならない事情とそれを可能にする世界的な過剰流動性があるからである。短期的な成果を求められるファンドや生計がかかっている運用者は、他のファンドが購入しているにもかかわらず自ファンドが購入しないという選択はできない。それもイールドハンティング(利回りを求めて狩りをする)と揶揄されるくらいに、低金利状態が長く続いていた背景がある。

現在は金利上昇局面でありハイリスク資産の下落は相当なものであるが、低金利でカネ余りの状況だから許容されていたリスクがいつ噴出するかわからないという意味で、アルゼンチン国債は高利回り投資への警鐘をならすものであることは間違いないであろう。