ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

風力発電先進国への道

2021年末日本初の大規模開発ができる先行3海域の公募が行われ、三菱商事の総取りとなった。5つの企業連合が参加し、東北電力と組み2015年から地元との対話や事前調査で先行していたレノバが落選した。実現性より売電価格が決め手となった。三菱商事の独占によって、競争が進まないことや産業育成のサプライチェーンの構築に繋がらない等の意見があり、稼働時期や落札上限を設けるといった公募ルールの見直しが報じられた。

政府が掲げた「2050年カーボンセロに向けたグリーン成長戦略」の中で2030年までに原発10基分、1000万キロワットを創出するとのことであった。今回の3海域だけでも原発2基分、170万キロワットが見込まれるわけであるが、改めて国策を推進する上での市場設計の難しさが浮き彫りになった。太陽光、半導体、自動車、省エネ技術、脱炭素技術、日本企業が技術的には先行するものの、後発国の大量生産や国際的ルールの策定において煮え湯を飲まされたことは一度や二度ではない。いち早く議論をまとめ、普及に努めなければ競争力を失ってしまう。公募の延期をして導入を遅らせたり、ルールを変えて高い電力料を容認してしまっては本末転倒である。今回の公募の一件以降、低い落札上限による採算の悪化を嫌気したジーメンスガメサリニューアブルの公募参加見送り、ベスタスの工場建設保留といった戦略転換が報じられている。特定の企業だけでなく多くの企業に参入しやすい環境を整えるためというのが制度設計変更の理由であるが、市場の魅力を打消し、競争を排することによって技術革新を阻む弊害を指摘せざるを得ない。

欧州では20年前から洋上風力を本格させてきた実績がある一方で、日本は2018年の再エネ海域利用法によってようやく認可手続きや漁業者との調整などの整備が進んだ。

今回の入札で三菱商事が独占できたのは、GEの後押しが大きかったという。GEが提供するのは競合企業連合が利用する予定の従来品より1.3倍の出力を出す大型風車であり、大型によって設置本数を減らしコストを抑える。また中部電力と2020年に買収したエネコ(オランダ)とは2012年頃から洋上風力で連携をしており、稼働実績とノウハウがあった。公募の提案内容にはアマゾンとの協業も盛り込まれており、先行している海外企業との連携が決め手であったとみることができる。

そして成長が著しいのは中国である。

世界で2021年に新設された洋上風力は前年の3倍になり、新たにできた洋上風力発電所の発電能力は2110万キロワットで、原発20基分に相当する。そして新設された内の80%が中国においての導入であった。

中国で急増した理由は固定価格買取制度である。国家発展改革委員会が2019年に、2018年までに承認された風力発電所は2021年までに送電線に接続しなければ固定価格での買取を認めないと通知を出した。その結果、最終年にあたる2021年に事業者が駆け込みで一斉に建設に動いたのである。中国では各省が開発事業者を選び中央政府が認可を出す仕組みである中で、政府主導して導入が進んでいる。各国の洋上風力累積導入量を見ると、1位は中国(2768万キロワット)、2位はイギリス(1252)、3位はドイツ(773)となっているが、日本(5)は圏外で本格始動していない。2021年末に先行三海域で公募・入札があり話題となったが、2030年までに1000万キロワットを目指す。

 風車メーカーの業界地図にも大きな変動があった。昨年の導入量ランキングでは1~4位が中国勢で占められた。5位はデンマークのベスタス、それまで4年連続首位だったジーメンスガメサリニューアブルは6位となった。中国が国策として普及を進め、巨大な内需の存在と積極的な投資促進によって市場を作り変えてしまったといっても過言ではないだろう。かつて太陽光パネルでも同様の過程で自国シェアを高めていった。デンマークやドイツといった欧州圏で風力発電は実用化が進んでいたが、後発である中国の攻勢が脱炭素の動きを契機に一気に抜き去った形である。

シェアが高まれば価格決定力も高まり、ノウハウも蓄積されていく。日本でも富山県沖の計画で日立製作所製風車が採用予定であったが、日立が風車製造から撤退したことを受け中国の明陽智能製風力発電機の導入が決まっている。

 再生可能エネルギーの導入にはコスト、運営リスクは付き物である。

例えば昨年欧州では風が例年より吹かないという事態が広範囲で発生し、風力発電量が20%減った。一方日本においては九州では太陽光発電過多になった時期、出力を抑制する事態になった。社会活動を化石燃料から再生可能エネルギーに移行させていくにあたり、普及には固定価格買取や設置補助金、税制優遇といった経済的インセンティブを与えることも重要であるが、それ以上に重要なのは安定供給のためのインフラ、技術への投資である。

気象予測や需要予測を高めるためのIT分野、AI技術等への予算を増やすべきであろうし、それらの予測を現実に落とし込む送電網、余剰を吸収する蓄電池技術の発展が急務である。特に日本においては、歴史的に大手電力会社が独占的に地域における送電、発電を担っていたため、それぞれの地域毎に送電網が異なる。地域間をつなぐ連携線はあるものの、もっと柔軟に日本国土をカバーできるような体制を作る必要がある。高性能で低コストであるという条件を、ハード、ソフトの両面から追い求めるのが喫緊の課題であり、先行する海外勢を離反させるような制度は是が非でも避けなければならない。