ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

3Dプリンタの可能性

国内ゼネコン大手の大林組が国内初となる建築基準法に基づく国土交通大臣認定の実証棟の建築を3Dプリンタで始めた。鉄筋や鉄骨は使わず、すべての構造部材は3Dプリンタで製造する。利用によって工期短縮・人件費削減・難易度の高いデザインの実現等が期待される。

3Dプリンタの分野で先行しているのは中国とアメリカ。特に中国ではインフラへの使用も始まっており、護岸ブロックや高速道路の防音壁などに使われている。

建設業界からの関心が高く、一説によると時間50%以上、人件費50%、材料コスト50%を削減できるとのことである。安全性における不安が残る新しい産業であるが、建築時のCO2削減に繋がることや、災害対策で仮設住宅を作成する等、公共性の高い側面も考慮しながら導入が進んでいくことに期待したい。

3Dプリンタ市場は今後急成長が想定される。当初は産業用というよりかは個人のホビー向けといった位置づけであったが技術の向上によって商用利用が拡大している。

製造現場では主に試作(ラピッドプロトタイピング)段階での利用が中心で伸びを牽引してきたが、今後は量産領域への展開が期待され潜在的な市場規模は大きい。先の大林組だけでなくトヨタ自動車も今月3Dプリンタ導入を発表した。廃版となった小ロットの部品製造で復刻に活用するとのことである。

トヨタの事例から読み取れるのは社会の変容である。大量生産大量消費の時代に求められた同品質で同規格の製品を製造し、スケールを追求する体制は現代において非効率とみなされる。ニーズが多様化し少量多品種が求められている上、商品寿命も短くなってきている。迅速で機敏な対応には3Dプリンタが必須であり、時代の要請にマッチしているともいえる。

従来の金型成型加工との比較をすると優位性は明らかになる。

設計から加工までの時間が短い。金型成型加工の場合は数カ月単位でかかるのが平均的だが、3Dプリンタの場合デジタル化されたデータがあれば、数時間から数日で完了する。また複雑な形状の加工が可能であるため一体成型や仕様デザイン修正がしやすい。

冒頭の大林組の事例では3Dプリンタ用特殊モルタル、超高強度繊維補強コンクリートが材料として使われており、異なる素材を組み合わせるマルチマテリアル化も可能となる。素材が高騰するリスクを抑えつつ、技術革新で金型による量産にコスト面で見劣りしないビジネスモデル構築が課題である。

活用分野も拡大している。

医療現場では患者の細胞を培養し、3Dプリンタを使い臓器や軟骨を作る研究が進む。

今月アメリカの3Dバイオセラピューテクスは患者の軟骨細胞をもとに3Dプリンティングを行い、「耳」の再建を行った。従来の片側の移植、多孔質ポリエチレン(PPE)より患者への負担が低く、拒絶リスクが低く適応性が高いということであり、将来的には整形以外にも臓器移植分野への応用を目指している。

食料品業界でも植物由来の素材を噴射し食品形成をする動きが進んでいる。鶏肉や牛肉の代替肉が有名で、2020年にKFCが実店舗で販売した実績がある。

航空・宇宙分野でも開発が進み、トヨタのケース同様に航空機部品でエアバス、国産ロケット部品で三菱重工が導入している。将来的には国債宇宙ステーションで3Dプリンタをつかった部品の現地調達、月面での宇宙開発拠点づくりにも使用領域を広げる野心的な計画もあるそうである。

 

「中国で1日で家が建設された」などと話題先行で興味本位に報じられることが多いが、社会を変容する可能性を秘めたイノベーションとして向き合い、国内産業育成と競争力維持のために3Dプリンタ技術をどのように活用し、導入していくのかという見極めが今後重要になってくる。