ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

Googleのムーンショット

新しい資本主義が提唱され、国主導による成長戦略として技術やイノベーションへの支援や枠組整備が期待されるが、革新的な技術・サービスによってゲームチェンジャーとなるような気概を最終的に具現するのは1企業の役割である。大胆な計画ほどいつ黒字化が見込めるのかといった理由で流れることが多いが、変化・失敗を恐れる姿勢や挑戦を許容できない旧来の企業風土や意識を変えていかなければならない。

Googleには「X」という組織があり、地球規模の解決困難な問題にフォーカスをあてたプロジェクトに取り組んでいる。

代表的なものは、自動運転の「Waymo」、ヘッドマウントディスプレーの「Glass」、空中風力発電の「Makani」などが有名である。他にも地熱発電、AI、ドローン、血糖値測定コンタクトレンズ、といった独創的で破壊的なイノベーションムーンショット)を起こせるような分野ばかりである。

その中で取り上げたいのは、成層圏に浮かばせた気球を使ったインターネットサービスに挑んだ「LOON」である。プロジェクトが立ち上げられたのは2011年、2013年に公表されたが2021年1月にプロジェクト終了が発表された。決して実績を残せなかったからではない。

人工衛星を使用するよりも安価に、広範にネットサービスを提供できる。技術的な進捗もあり、プロジェクト終了はビジネス環境の変化と言われる。立ち上げ当初はインターネット普及率が低くネットにアクセスできない潜在的利用者は多かったが、この10年で普及率は人口全体の90%を超えたことで、事業継続することが意味をなさなくなる可能性があった。

そして重要なのは撤退を失敗と捉えていないことである。長期間にわたって気球を飛ばし続け、データを送信し続けたことで得られたものは大きい。

成層圏で気球を一定の距離で浮かし続けるためのレーザー技術、正確に風向きなどの気象予測を行うビッグデータを用いたAI技術は現在進行している、光線インターネット接続を目指す「Taara」、海洋保護を目指す「Tidal」、プロジェクト、無人ドローン「Wing」などで活用されているだろう。このような知見の蓄積が他事業への相乗効果を産み出し、その遺産を新たな挑戦に乗り出すことでGoogleの世の中をよくするというパーパスが実行されているのではないだろうか。

Google X のような壮大過ぎる事業にチャレンジできる財務基盤を持った会社は多くはないが、今後参考にすべき成功例もある。Googleの挑戦するカルチャーが垣間見える「Google Map」である。前述のプロジェクトのように途方もない目的に膨大な開発費をかけたわけではない。2005年にリリースされたが当初カバー地域はアメリカとイギリスのみ。目的地を検索できず、経路も探索できないような状態であったという。ともすれば精度改善に注力しがちであるが、矢継ぎ早に「Google Earth」「Street View」と言った機能を追加しながら、エリアまでをも拡大していく。結果、日常的なツールとして10億人以上が利用するサービスになった。

未完成でも投入することで消費者の反応やニーズを見極め、変更や改善をしていく。技術革新が速く、変化が速い時代だからこそ求められるのは思い切りである。

完成品を投入することにこだわり市場変化から取り残されていく黒字化にこだわり開発に踏み切れない枝葉末節を突き、出来ない理由を探す社内官僚による「ダメだし」が削いだ日本企業の輝きを取り戻すには、「世界を変える」という大胆な発言をするくらいの意気込みが必要である。

 

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