ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

日中の不動産バブル

中国の不動産大手、世茂集団のデフォルトに陥ったとの報道があった。不動産不況が叫ばれる中で、これが中国経済崩壊の引き金という報道もある。2015年のチャイナショックやZTE、ファーウェイへの制裁が象徴する米中摩擦、2021年以降のIT株、教育株などの暴落はあったものの、その都度強権的に乗り切ってきたのが中国でもある。今回も昨夏の中国恒大(EVER GRANDE)問題のように、時間の経過と共に投資家の頭から忘れ去られてしまうのではないか。一時、恒大の話題が見出しにならない日はなく、この世の終わりとも言うくらいに報じられていたが話題に挙がることも少なくなった。市場が鳴らした警鐘が効いたのか、市場の変わり身の早さゆえかなのかは議論を要するが、信用不安が再燃することで世界に大混乱を引き起こすような推移を辿わないよう願うばかりである。

中国恒大、世茂集団の一件は中国不動産バブル崩壊、ひいては中国経済そのものに打撃を与えるのだろうか。秋の中国共産党大会に向けて注目が高まってくることが想定される中国不動産についていま一度考察してみたい。

中国がこの20年で成し遂げた成功の要因は多々あるが、高騰する不動産市況もその一つであるのは間違いない。GDPの30%近くを占めるのは主要先進国でも中国くらいである(諸説あり)。そして、大規模で不動産価格の上昇という共通項を持つゆえ指摘されるのが日本のバブル崩壊と同じような轍を踏むのかどうかであり、当時の日本の環境と現在の中国の状況を比較することに有意性を見出すことができると思われる。

1980年代、山手線の中にある土地だけでアメリカ全土が買えるといわれるくらいに不動産が高騰していた。中国においても、都市部では生活に支障が出るような高騰を見せ、一般庶民には手の届かない水準にまでなってしまっている。

論点1、政策と規制

80年代の日本ではプラザ合意以降の円高による景気悪化に対応するための公定歩合の引き下げがバブル生成のきっかけになったと言われているが、ドル高是正という外的な変化への対応が、不動産、株式、消費あらゆる価格を押し上げたとみることができる。

一方で中国の不動産バブルは内的な発生起源をもつといってもよいだろう。2014年から2016年にかけては不動産投資ブームを煽るような形で、投資用不動産の購入頭金最低比率を引き下げている。しかし、その後はシャドーバンキングや増加する債務問題に直面し慎重な姿勢に転換している。2021年8月に不動産会社が守るべき3つのレッドライン三条紅線を設け(総資産に対する負債比率が70%以下、自己資本に対する負債比率が100%以下、短期負債を上回る現金の保有)抑制に動いている。中国恒大問題も一説によると、政治的な軋轢から生じたという分析もある。7月に債務再編案が公表されるとのことであるが、中国人民銀行の一部融資の制約緩和、経営難不動産業者に対する支援強化の発表、デッドエクイティスワップの活用も加わり金融のシステミックリスクは避けられそうな情勢である。崩壊するまで膨張を続け、日銀の引き締めと共に崩壊した。一方。中国は膨張気味ではあるものの、適宜当局からの荒治療を含めた予防的な規制がある。

論点2、GDP水準

大国に期待される義務を逃れようとしているきらいもあるが、名目GDPは世界2位だが、1人当たりでみると中国は65位で、アメリカの約1/5、日本の1/3でしかない(IMF、2021)。当時の日本はアメリカを凌駕していた。日本の経済全体が山頂まで到達している半面で、現段階の中国はまだ中腹といったところではないだろうか。例えば購買力平価でみれば今の中国はアメリカの1/4程度、80年代の日本は8割程度までになっていた。高所得者の多い沿岸部都市の所得や不動産価格が突出して高騰していることからも、今後国民の所得が向上していく過程で、内陸部に不動産価格上昇が波及していく余地がまだ存在するという見方もできる。一部のバブルであって、国全体としては富の偏在というのが中国経済ではないか。

以上の2つの要因からすると中国の不動産価格暴落やそれに付随するデフォルトリスクは、一定の管理下に置いてコントロールされたものである点と、まだ経済が成長段階にあるという点から差し迫った危機ではないと言ってよいと考えられる。そして今年秋の党大会でに向けて、ゼロコロナでストレスが溜まった人民の不評を買うような荒治療はしないと考えた方がよさそうである。