ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

日本の教育と神童

7月8日日経朝刊に「ギフテッド封じる平等主義」という報道があった。

突出した能力を持つ「ギフテッド」への教育プログラムや土壌が日本で培われていないことへの危惧、科学技術分野など先端分野においての日本の出遅れにつながりかねないという内容で、記事では12歳で大学修士課程を終えたベルギーの少年が取り上げられていた。

幼少期、驚異的な頭脳で神童扱いされ、後に起業にいたった経営者も多いが、近年最もインパクトを残したのは2020年12月にSPACを使い上場した「Luminar」のオースティン・ラッセルCEOではないだろうか。

ラッセルは2歳で元素記号を暗記、小学生で携帯電話を自作、その後自宅をラボに改造し実験に明け暮れ、13歳で水リサイクルシステムの特許を取得する。そして17歳でLuminarを設立。裏の大統領とも評されるピーター・ティールの基金から支援を受け、開発を続け2017年、主力商品であるLiDAR(ライダー)「IRIS」を発表する。

LiDARというのは自動運転に欠かせない、障害物検知の赤外線センサーシステムのことである。従来はソニーが得意とするカメラで障害物を検知する画像処理センサー、デンソーが強いミリ波レーダーを使うことが主流で、LiDARの赤外線レーザーも高度な自動運転には欠かせないとされていたものの、一台7万ドル程度とあまりに高額であったため普及が進まなかった。

しかしLuminarが数百メートルも先の障害物を数センチ単位で検出するLiDARを発表したことにCASE時代の到来に直面した世界中の自動車メーカーから注目が集まり、出資、提携の話が技術革新と量産化による低価格化の道を拓いた。現在では500~1000ドルの低価格帯の開発を進め、トヨタボルボ上海汽車などの自動車メーカーとの提携、採用が矢継ぎ早に決まり、自動車産業以外にもエアバス、エヌビディアが採用をしている。

突出した才能「ギフテッド」がブレークスルーをもたらし、破壊的なイノベーションで社会を変えていくことは多い。テスラのイーロン・マスクも幼少のころ相当な読書家で、読む本がなくなると百科事典を読み、ほぼ全てを暗記していたという。

世界的に見て日本の教育水準は高いと言われるが、経済に役立っているかどうかは甚だ疑問である。同質、同水準の人材を育成するという意味で日本の教育システムが高度成長に貢献したのは疑いの余地がない。

しかし変化の激しい現代において、「同じ内容を同じ年齢で教える」という平等主義や「特例を認めれば、差別を正当化する」という考えはもはや時代錯誤であると言わざるを得ない。

日本屈指の進学校であり東大合格者ランキングが常に上位の開成高校灘高校、上位の生徒であれば、世界でも屈指の頭脳を持っている神童のはずであるが、なぜ彼らの向かう先は東大文1、理3ばかりなのか、なぜ官僚と医者に限定されていくのか。

多様な可能性を示し、個性を認め、才能を尊重する社会や教育システムがこれからの日本には必要である。