ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

東芝に見る、グローバル企業のスピード感

東芝株主総会が開かれファンドの影響力が改めて意識された。非上場化を目指す動きと言われるが、ここに至るまでの二転三転がより事態を複雑にしている。東芝買収の提案やキオクシア上場延期、会社分割案といった重要議題が個人株主不在のような状況で進んでは立ち消えてと繰り返されている。まさに巨大資本に振り回されているような状況である。

東芝迷走のきっかけになったのは2006年原子炉製造のウェスティンハウス買収と考えていいだろう。買収自体は重電メーカーとして京都議定書以降の温室効果ガス削減に沿った妥当な選択で、その後、東日本震災で原発に関する風当たりが強くなるのというのは予測不能である。問題は買収額が異常に高かった点にある。競合した三菱重工の2倍と言われ、後に巨額の損失を計上することになった。

そして業績不振を払拭するために不正会計に手を染めてしまったことで信頼を失ってしまった。到底達成不可能な目標を課し不正会計を指示、流行語にもなった「チャレンジ」。半導体、パソコン、映像、工事、4分野での不正が明らかになり、常態的な不正とガバナンスが崩壊していることが明らかになった。(証券業界でも上司からのノルマ引き上げというチャレンジ指示がいたる支店で行われた)

その後も経産省と連携して株主に圧力をかけるなど、不祥事が続出する中で企業としての信用も完全に失われた。

しかし、その都度発表された改革案や計画が実行されていたら企業再建の良いケーススタディになったのではないか。場当たり的対応や、後手に回る対応に経営再建の道筋や一貫性が見いだせなかったことが問題であるように思う。

例えば会社分割。3分割と発表し後に2分割に修正されたが、それ自体は有効な手段であり、コングロマリットディスカウントを払拭する格好のチャンスであったはずである。

コングロマリットにはメリットが多々ある半面で、時代の変化やニーズに追い付けなくなっているという指摘がある。

事業が多岐に渡り経営決定が遅くなる

部門ごとに情報や人材が内部に滞留してしまう

部門独特の文化が醸成されてしまう

伝統的で規模の大きい収益性の低い事業に傾斜してしまう

このような性質が新規事業創出や迅速性を阻み停滞を生み出している。

近年多発している検査不正や不祥事はこれらが要因ではないか。三菱電機の検査不正やパワハラ問題はまさにこれらの弊害が長年蓄積した結果であるとも言える。

しかし東芝で検討されていた内の1つ、会社分割を実施できれば東芝のみならず硬直し閉塞的な日本の大企業風土を変えられる案件にもなりえたのではないか。皮肉にも同じタイミングでGEが会社3分割を発表しJ&Jも2分割を発表し、2019年にはダウデュポンが3分割を実施している。いずれも伝統あるグローバル企業であり、日本企業の大半より時価総額が大きい企業である。

GEは「発電」「航空」「医療」、J&Jは「日用品」「医療」、ダウデュポンは「特殊産業材」「農業」「素材」に分割をした。潜在的な成長力がある事業が抽出され、効率性と利益率を高める動きが可能になる。またサイズダウンすることで業界内での再編に動きやすくなるという利点もある。

東芝の一悶着が、環境が激変する現代だからこそ、諸先輩方が築いた事業をつぶせないといった忖度や低収益事業が成長投資を躊躇わせるという旧来の価値観を打破する橋頭堡になれなかったのは極めて残念である。