ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

キャシー・ウッド(ARK)の功績

「ハイテクの女王」と言われ絶大な人気を博したキャシー・ウッド率いるARKが相当な苦境に立たされている。ブルームバーグが報じた6月1日までのデータによると、上場9本の運用資産額が年初から48%の減少し153億ドルとなった。投資家の資金引き揚げのみでなくパフォーマンスの低下が資産減少を招いており、9本すべてで2桁のマイナスを記録している。一方で資金流入は1.67億ドルであった。

コロナショック後、様々な形での新常態が世界的に生じ、それを追い風に特需に沸いた企業が投資対象の中心であったことが抜群のパフォーマンスを産みだし、2020年3月からの約1年間は圧倒的な値上がりを見せていた。キャッシュフローが赤字でも将来性のある企業を組み込むアグレッシブさがコロナによる新常態、低金利にマッチし資金流入を加速させた。しかし現在は金利上昇によってそれらの企業群の将来的に生み出す利益成長が割り引かれてしまい、値上がり分をすべて吐き出すような下落に見舞われている。いまや完全に「王」はバフェットであり、ウッドは裏切り者かのようである。このまま下落や資金流出が続くのか、今が底値なのか、ARKについて掘り下げる中で彼女の功績を考察したい。

ファンド設立は2014年。ARKの由来はインディージョーンズでお馴染みの「聖櫃(アーク)」とも言われるが、「Active,Research,Knowledge」の頭文字である。資金的なスポンサーになったのは、昨年世界の金融機関に多額の損失を発生させ大問題になったアルケゴスのビル・フアン。

それまでウッドはジェニソンアソシエイツ、アライアンスバーンスタイン等でエコノミスト、ストラテジスト、運用者と様々な役職を経験している。マクロ的アプローチや経営幹部層としての経験を兼ね備えており、そこから推測できるのは、ゲームストップ騒動に象徴されるよう投資家のように楽観的にコロナバブルに乗って投機的に振る舞っていたわけではないということではないだろうか。

ファンドの運用方針に関しては高成長でボラティリティの高い小型株が中心で、破壊的なイノベーションを重視。ファンド運用メンバーも特徴的で、業界の花形アナリストや運用者を雇用するよりは、それぞれの業界に詳しい専門家(科学者、医師など)を重宝し、金融業界外部の意見を積極的に取り入れるのが特徴である。

 

ARKは現在、9本のETFを上場させている。

①ARKK アークイノベーション(ARK Innovation ETF)旗艦ファンド。産業イノベーション、ゲノム、Webx.0(次世代のウェブ)の3分野で、破壊的イノベーションの恩恵を受ける銘柄が投資対象。

②ARKF アークフィンテック(ARK Fintech Innovation ETF)。フィンテックイノベーションが投資対象。

③ARKG アークゲノミック(ARK Genomic Revolution ETF)。ゲノム、バイオ関連のイノベーションが投資対象

④ARKQ アークオートノマス(ARK Autonomous Technology & Robotics ETF)。自動化、ロボ技術関連のイノベーションが投資対象

⑤ARKW アークネクストインターネット(ARK Next Generation Internet ETF)。IOT等の次世代インターネット関連が投資対象

⑥ARKX アークスペース(ARK Space Exploration ETF)。宇宙関連が投資対象

⑦PRNT アーク3Dプリンティング(3DPrinting ETF)。3D関連が投資対象

⑧IZRL アークイスラエル(Israel Innovative Technology ETF)。イスラエル企業に着目した投資 

⑨CTRU アークトランスファレンシー (Transparency ETF)。直訳すると「透明性」。社会的課題の解決に貢献でき、成長が見込め、企業経営上の透明性が高い企業への投資。

 

其々に特色はあるが、徹底的に社会を変容する可能性がある破壊的イノベーションを重視していることが表れている。

2022年の年間レポート「BigIdeas2022」でも余すことなく今後有望なテーマが14も133Pに渡り解説されている。また日興AMのマンスリーレポートでも同様の発言がなされており、アマゾンやアップル、テスラを引き合いに出しながらロングタームの視野と長期的なメリットを重視してほしいと括っている。

そしてキャシーウッドを一躍有名にしたのがテスラへの投資である。2018年に300ドル台であったのを5年で700~4000ドルになると発言し話題となった。当時株価低迷でテスラ自身が非上場化を検討していたが、取締役会宛で上場を維持してほしいと書簡を書いたとの逸話もあるほどである。4000ドルというのは荒唐無稽で現実離れした株価であったが、その後テスラは5分割を考慮すると2021年にテスラ株は6000ドルになった。

ARKの功績はこのエピソードに表れているのではないか。イノベーション企業を発掘することにおいては他に例を見ない存在と言える。そして独特の分析方法。従来的な縦割りや業界内に籠るようなことはせず、オープンなプラットフォームで研究を行い、外部の知見を取り込み、さらにそれをシェアすることは金融業界慣行に一石を投じている。

そしてもう一つの功績は長期投資の重要性とポートフォリオバランスの重要性を世に問えたこと。GAFAを例にとっても初めから突出した企業であったわけはなく、イノベーション企業への投資というのは将来から逆算して、いつか起こるであろうパラダイムシフトに備えることでもある。そしてすべてのベンチャー的投資がテスラのように成功するわけではない、ポートフォリオの中に適正なグロースへの配分を投資家は考えなければならない。

 

ファンドには様々な運用スタイルがあり、代表的なアクティブ、インデックス、細分化していけばイベントドリブン型や裁定取引型と枚挙に暇がない。そしてそれらのファンドが運用手法や分析ツールを駆使し成績を競い合うわけであるが、ARKファンドは運用巧者という側面はなく、先見性に富んだ、強い運用哲学と信念を持ったファンドと言えるのではないか。ウッドの半生からも、ぶれずに首尾一貫したイノベーション企業投資への哲学とアイディアがある。

過去1年の下落幅は相当なものであるのは事実である、彼女の言うように長期で考え、積み立てなどで投資を始めるにはいい水準であるのではないだろうか。

 

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