ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

宇宙開発

2007年グーグルが支援しXプライズが開催した月面探査レースが話題をさらい2018年に終了したが、この10年で宇宙ビジネスが本格的に動き始めた。

スペースXやバージンギャラクティックは宇宙旅行の可能性を大きく飛躍させ、新たな産業が誕生すると期待させるものであった。

国・企業が宇宙ビジネス拠点として注目しているのは月である。かつての宇宙開発はアポロ計画のように科学技術を国家間が競いあう側面とスプートニックのような軍事的利用も視野に入れたものが中心であった。しかしこれからは商業的な成功を月面に見出す開発が中心になってくる。2018年アメリカが2020年半ばに有人月面着陸を目指す、アルテミス計画を始動し、民間企業や大学も取組を強化する。

月面利用ビジネスは多岐に渡る

  • 資源開発
  • インフラ建設
  • 輸送
  • 観光
  • 農業
  • エンターテインメント
  • 金融・保険

特に期待が大きいのは資源開発で、月に水資源が存在する可能性が指摘されているからである。水を水素と酸素に電解することでエネルギー源になり得る。現地調達の動力が得られれば月の利用価値は増大する。重力が地球の1/6であることから、火星やその他の惑星探査のロケット打ち上げや、人工衛星の維持や、新設時のコスト減になる。研究によって原材料も現地で調達できるのであれば、3Dプリンターを駆使し基地建設やインフラ整備が可能になり、地球からコストをかけて輸送する必要がなくなる。月の資源を有効活用できる技術に道筋が立てば、周辺ビジネスも育ってくるであろう。

国の独占だった宇宙開発が民間との連携によって急加速しているのは、長期的なビジョンが国によって示され、企業側が長期のビジョンを描きやすくなっていることが挙げられる。

国だけで担うにはコストが高すぎるが、民間の技術と資本を入れて連携をしていけば市場は拡大していく。冒頭のGoogleの件もNASA単独の呼びかけでは盛り上がりに欠けたであろう。今やNASAはスペースXとも連携をしているし、トヨタJAXAと月面探査車を開発している。

皮肉なことではあるが、民間の開発力と国家の結び付きで宇宙を目指す西側とロシアや中国のように国主導で推進をする構図はさながら冷戦の再来のようで、対立が月面にも延長されてしまう懸念は残る。

翻って日本の状況は相当に遅れている。小型人工衛星の打ち上げシェアはトップのアメリカが76%に対して1%、かつて10%を超えていたことからするとこの十年で海外勢に水をあけられた状況である。

はやぶさのような成功例もあり技術的に先行していたはずであるが、実用的な商用プロジェクトより学術的な研究プロジェクトに重点が置かれたためコスト競争力に欠けるとの指摘がある。

一回の打上コストは三菱重工のH2Aは100億かかるが世界首位のスペースXのファルコン9は60億円で収まる。通信衛星や観測機器を打ち上げる際にどちらが選択されるのかは火を見るより明らかである。

スペースXの低価格も一朝一夕に達成されたわけではなく、NASAスペースシャトル代替輸送手段の公募で選ばれて以降、技術、資金面での協力を得た長年の結果である。ロシアのウクライナ侵攻時、話題となった小型衛星による宇宙通信網スターリンクはビジネスとしての宇宙開発を具現化した最たるものでもある。技術を事業化するリスクを取るか取らないかがこれからの宇宙ビジネスにおけるあらゆる分野において重要となってくるだろう。