ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

電力不足に考える原発

島根県知事が中国電力島根原発2号機再稼働に同意すると表明した。

地方自治体の同意を得られた原発は14基となったが、国内で現状稼働しているのは4基のみであり、建設中の3機を除いた33基のほとんどは稼働していない状況である。

同意を得られた14基のうち10基はテロ対策施設の工事や関連工事が完全に終わっていない。資源高が長期化する中で、電力需要が高まる夏、冬に安定供給が危ぶまれ原発の再稼働を求める声が大きくなっている。6日松野官房長官は記者会見で5年ぶりの「電力供給に関する検討会合」を開くと表明した。

経産省は5月にまとめたクリーンエネルギー戦略の中間整理に原発を「最大限活用」していくと明記しており、岸田総理も審査手続きの効率化、合理化に言及し、夏の参院選でも公約に盛り込んでいく方針とみられる。エネルギー自給率が低い状況下で現行の脱炭素を維持するには原発再稼働が避けて通れないということであろう。

2011年に福島原発事故が起きて以降、日本における原子力発電は特に風当たりが強い。一方で欧米に目を移すと様相が異なる。脱炭素の有力な手段という側面と、ロシア産化石燃料からの脱却という側面から、新増設計画が相次いで発表されている。イギリスでは8基の建設承認が出る見通しで、スウェーデンでは世界二例目の最終処分地建設の承認が出ている。フランスも追随する予定で、現在脱原発を維持しているのはドイツ、スペイン、イタリアといった国々である。

脱原発一色であるわけではないというのが特徴であり、原子力そのものへの議論がまだまだ必要であるが、最近の潮流は小型原子炉の導入である。

 

小型モジュール炉(SMR):出力100万キロワット超の従来型の原発に対して、三分の一程度の出力規模。低出力で保守管理がしやすく、安全性が高いと言われる。原子炉ごとプールに沈め、水の対流で炉心を冷却する設計が主流で、非常時にも追加冷却水注入や電源を必要としない。福島原発事故では電源が失われたことから炉心融解を招いた。そして使われる核燃料自体も少ないため安全性が評価されている。また小型ゆえに通常5~7年程度かかっていた好機を3年に短縮することもできる。

現在開発中のSMRは80基前後と言われており、各国で開発が加速している。中国では国有原発大手が着工に入り、2026年の稼働を目指し、ロシアは海上に浮かぶ船舶型SMRの商業運転を始めている。この2か国はSMR外交を国家戦略として今後も推進していくだろう。フランス、アメリカも積極的に開発を進める。

民間でも開発の動きが活発になっていて、日立、GEの合弁会社や、三菱重工、仏EDF、英ロールスロイス、バフェットが所有するパシフィコ―プといった大手が中心ではあるが、新興企業による開発も増えてきている。代表例はニュースケールパワーでSPACを利用し上場を果たした。ニュースケールには米エネルギー省、日本からもIHI日揮が出資をしている。既に原子力規制当局の技術審査を終えており、2029年に第一号が稼働予定である。他にも韓国のSKと提携した2006年ビルゲイツが設立したテラパワーが挙げられる。

 

日本では2011年の事故以来、原発の新設が敬遠され、専ら保守、管理、廃炉の技術が中心となっている。それに伴い過去蓄積された建設技術や管理のノウハウが風化されてしまう可能性があり、現場の世代交代が進めばそれらの知見は失われてしまう。

脱原発を明確に打ち出さないのであれば、世界のトレンドに乗り遅れないような取り組みが必要となってくるはずである。