新しい資本主義に見る、岸田政権
岸田総理の掲げる経済政策「新しい資本主義」の実行計画案が公表され、6月7日に閣議決定される。
総じて岸田総理は市場に嫌われているところがあり就任後の株価下落は岸田ショックとも揶揄されていたが、最近の政策や発言を見ると非常に勉強熱心で随時アップデートをしながら市場と対話しようと試みているかに見える。
金融所得課税は行き過ぎであったが、新自由主義からの脱却という世界的な潮流や社会の変化を追随しようという意思を見せつつも、軌道修正を図り、現実的で歴代政権からの連続性が途絶えないような政策方針を掲げ、情勢の変化に臨機応変に対処している。
今回の「新しい資本主義」「骨太方針」概要
「実行計画」
- 人への投資:NISA、イデコの拡充。非正規雇用、教育。男女賃金差公表義務、非財務情報開示
- 科学技術:量子、AI、バイオの国家戦略
- 新興企業:個人保証緩和、スタートアップ支援
- 脱炭素:10年で150兆円投資、再生エネ、原子力活用
「骨太方針」
- 安保:防衛力強化、輸出制限見直し
- 財政:健全化
ここで過去の主要政権が打ち出した経済政策を振り返ってみると
といったところが近年の主だったものであるが、それぞれの政権を特徴づけるようなテーマとキーワードを意識的に利用し有権者にアピールしていることがわかる。今回の岸田政権におけるキーワードは「新しい資本主義」ということになるのは疑いようがない。成長戦略は当然として、分配をどう具体化するのかが焦点になっていることと思われ、就任当初、物議を醸した金融所得課税はなりを潜めている。
また変化という意味では、5月に渡英しシティーで「invest in kishida」演説が象徴的で、経済成長、投資に重点が置かれていることも指摘できる。就任当初は社会の分断や格差の拡大といった社会的問題への提起に始まったものの、就任以降の景気悪化懸念の台頭を踏まえバランスを重視するようになっている。
そして財政に関して「プライマリーバランスの2025年までの黒字化を(堅持)する」という文言を「目標に取り組む」と後退させている。米中の景気後退懸念やロシアのウクライナ侵攻による世界情勢の変化など非常に難しい局面での政権発足となってしまったことが不運としか言いようがないが、理想から現実に政策や発言を寄せてきている取り組み姿勢は評価できる。
これからの政権運営に経済と財政の両立という難しい舵取りが課される中で、夏の参院選を経て政策実行能力が問われるようになってくるはずである。