ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

新しい資本主義下でのベンチャー育成

政府より「新しい資本主義」実行計画案が公表された。その中に新興企業への支援、創業時の個人補償不要といった骨子が示され、今後、更なる環境整備がなされていくことを期待したいところです。

 

世界的な危機が起こると革新的な企業や技術が生まれると言われることがあります。

コロナ禍以降アメリカでは創業企業数が増加しています。コロナに限らず過去のリーマンショックやITバブルの崩壊といった世界的に委縮している時期に行った投資が大きな成果を挙げ、逆境での積極的なリスクテイクが後に成功を収めたケースはテスラの黒字化やアマゾンの成長が具現しています。

一方、日本のベンチャーキャピタルへの投資は米国の1%、中国の7%程度しかないと言われています。社会の変革に取り込む企業や革新的テクノロジーを支援する制度と文化の創出が急務です。

2022年3月のユニコーン企業(企業価値10億ドル)ランキングを国別でみると、約1000社中550社がアメリカ、180社が中国で全体の70%を超えています。制度的背景や金融環境の違いがこのランキングに表れていると思われます。日本でも2018年の閣議決定「未来投資戦略2018」が策定され2020年には「成長戦略フォローアップ」が掲げられましたが、まだ成果は上がっているとは言えません。

現時点での国内最大ユニコーンはAIのプリファードネットワークス(3500億円)、DXのSmart HR(1700億円)などが有名ですが、世界首位のバイトダンス(1400億ドル)、スペースX(1000億ドル)に比べると差は大きいです。更には金額だけでなく件数においても見劣りしており、韓国の半分程度しかないという調査もあります。

 

問題として考えられるのが、ベンチャーキャピタルへの投資額の少なさです。今後さらに税制上の恩恵を拡充することや、経団連から提言が出ているような法人設立手続きの簡素化や海外人材の誘致といった施策が必要です。

そしてVC規模の小ささが遠因になっているのが、早期に上場を目指す日本の慣行です。資金調達の難しさと上場基準が緩いため、成長する前にIPOを選択することで株主の短期的な利益追求や外部からの圧力にさらされてしまい、得意分野を伸ばしユニコーンに成長する機会を逸している可能性があります(ユニコーンは未上場企業)。マザーズ時価総額2位のフリーもピーク時に6000億円の時価総額となりましたが、上場時は1000億未満でした。

そしてスタートアップ企業の課題として挙げられるのは何をターゲットに事業分野を策定するかということではないでしょうか。

ユニコーン企業はシリコンバレーに限った話でなく、アジアからも続々と誕生し上場まで漕ぎ着けています。今年上場したインドネシアのGOTO(ゴジェックとトコペディアが統合)。韓国のクーパン、シンガポールのグラブやシーといった企業が代表的です。それらの企業に共通するのは「ローカル」に徹し「グローバル」に展開するアマゾンなどとの差を明確に打ち出したことであると考えられます。世界均一に展開するのではなく、その地域の生活や文化に即した形でのローカライズをすることで現地において圧倒的なシェアを獲得していく戦略が日本にも馴染むように思われます。LINEは国内で圧倒的ですが英語圏では普及しなかったですし、メルカリも米国事業で相当に苦戦をしています。英語を母国語とする商圏をメインターゲットにする将来的なビジョンを持ちつつ、国内でのシェアを優先するという戦略が日本のユニコーン予備群には有効ではないでしょうか。