ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

ジョブズの思い出

コロナ禍で圧倒的な存在感を示し、世の中になくてはならない会社になったアップル。

カリスマ経営者として逸話に事欠かないスティージョブズ

キャリアの中で忘れえない経験をしたのは2008年前後ではなかったかと記憶してます。当時アップル日本法人は六本木ではなく新宿区初台にオフィスを構えており、自身が新宿支店に所属していたことから、数名のアップル社員の個人資産運用の担当をさせていただくことになった経緯で伺った話です。

2007年のiphone発売からそう時間がたっておらず、2008年のリーマンショックが世界経済を直撃し、先行きの不透明さは現在の環境を上回っていました。どの地域、業種、企業も全く先が見通せなかったのです。証券セールスの身として「会社がつぶれるんじゃないか」と本気で思いましたし、毎日下落し続ける株価を見ながらノルマのことを考え絶望してました。

証券リテール営業についての補足ですが、「新規開拓で取引いただくことになったお客さま」と「前任から引き継いだお客さま」2通りのお客さまがいます。このケースについては後者。

当時を思い返すと、iphoneに好意的な見方というのはそこまで多くはなく、「壊れそう」「使いづらそう」といった声が大半で、「アップル信者」「アーリーアダプター」といった人たちぐらいしかその価値を見いだせていなかったように感じます。

証券業界でも元来アップルに対しての評価は高くなく、windowsに負けた会社というイメージが強かったです。前述のような経緯で引き継いだ顧客がアップル株を持っているケースは、「アップル社員」か「前任の諸先輩方達からITバブル時にセールスを受け塩漬けになったお客さま」の2パターンしかなかったです。

職場が近いこともあり、定期的に初台のオペラシティにあるタリーズでお会いし運用報告やセールスをしていたわけですが、あるとき雑談の中でお客さまがこう発言しました。

「インサイダーとかではないんだけど、この前ジョブズから全社員宛てにイントラメールが来た。」とのことで、内容は「今は状況悪いけど、立ち直れるから株を買ってくれ。」との趣旨だったと。

その時は、まったく気にも留めなかったです。自分がiphoneスマホ)を持つようになるとも思わなかったですし、マッキントッシュもマニアックすぎて大衆受けするようなことはないだろうと思っていたからです。

当時はアップル株はとてつもなく安かったです。2014年の7分割、2020年の4分割を考慮して現株数で計算すると、6$。ただ「あのアップルがこんなに安く買える」というよりは「iphone失敗したらつぶれるんじゃないの」という気持ちが勝りました。

なぜ急にこの話を思い出したのかというと、先日日本電産の永森重信会長の復帰発表を見たからです。「今の株価は耐えられない。」経営者であれば株価に拘りを持つことは当然です。昨今の上場ゴール的企業における、初値形成日が上場来高値日であることの異常さは日本特有ではないでしょうか。幹事会社の値付けの問題、飛びつく投資家の節度も問題でもありますが、その株価が付いたということは「その株価で買った」投資家がいるからでもあります。投資家に報いることのできない企業は社会に貢献できているとは言えません。

企業価値向上は株価上昇と切っても切り離せない命題です。コーポレートガバナンスコード導入や東証再編を契機とした経営改革に勤しむことも重要ではあるが「株価対策」を疎かにすべきではない。

自らのキャリアにおいても、証券会社3社に勤務し、それぞれの経営層の話を聞くことがあったり、訓示を何度も受け「販売額」「手数料収益」等の話は辟易するほど聞いたが「自社株価」に対しての話は聞いたことがない。株価の話題になるのは、内輪で「持株会の積み立てがどうしようもない。」「リーマン前に定年の人はうらやましい」という話ばかり。証券会社にも関わらず。

 

どの企業にしても起こりえる話ではあるが、日々意識すべきは「売上と利益」、「株価はその結果を勝手に市場が判断するもの」という風潮があるのではないか。

株式会社であり上場企業である以上は、日々の株価に踏み込んだ経営者が増えてほしいものである。