ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

決算発表の重要性~その決算は許されたのか

2022年3月期決算が出そろい、コロナショックからの立ち直りが順当であることが確認できた。しかし不確実性が極度に高まっている現在、企業が発表する業績予想に対する投資家の視線が高まっている。2023年3月期の着地を予想することが極めて困難であるからである。

現投資環境下におけるリスクを挙げればきりがないが、大別して以下のようになると考えられる。

  1. FRB金融政策の方向性
  2. ロシアウクライナ情勢
  3. 円安等の為替
  4. ゼロコロナ政策による中国景気失速リスク

そして、それらの要因が複合的に絡み合うことでの

  5.インフレ懸念

当然のことながらこれらの不確実性に対峙し頭を悩ませているのは企業側でもある。原材料高や半導体不足等の諸問題もあり保守的にならざるを得ない。

そのような状況で、今回の業績予想は前期ほどではないにせよ及第点ではなかったか。2022年3月期純利益36%増、2023年3月期3%増(2022.5.15日経朝刊)。

にも関わらず、株価の反応は芳しくない。過度な悲観からニューヨーク市場やナスダックに引っ張れているように感じられる。

「成長」から「収益」に投資尺度が変遷したことは自明であるが、あらを探すような売りには与せず、しっかりと内容を吟味し、選別すべきではないだろうか。

視点1 しっかり短信等で会社の言い分を聞く、アナリストコメントは後付けと思う

例えばトヨタ。前期3兆円近い利益を上げたが、今期は20%減益(2兆4000億円)と発表した。今期ほどの円安効果はなく、原材料価格の高騰がその理由とされている。想定為替は1ドル115円、1ユーロ130円。保守的に見積もってこれだけの利益を提示できる会社は世界にもそう多くないが、発表後株価は5%近く売られた、自社株買いも同時に公表していたにもかかわらず。

おそらく、売られた一番の理由は「予想に届かなかった」から。アナリストの予想平均営業益は3兆4000億円弱、1兆円も開きがある。これだけの不確実が存在しているにも関わらず、そこまで強気にアナリストが見ていたことに驚く。

同様のことは米国上場ネットフリックスの4月に行われた決算時にも見受けられた。投げ売られて当然の内容ではあるのだが、会員数の純減が公表され30%の暴落。1月の決算時には会員数の鈍化が発表され20%の暴落。ここまで数値が乖離すると企業経営に非があるのか、カバーしているアナリストが見当はずれだったのかわからなくなるが、少なくともアナリスト予想を金科玉条としてはいけないということではないだろうか。特にセルサイドほど「アナリスト予想」が「アナリスト希望」になっていることには注意を。

視点2 記事を鵜呑みにしない

新聞やWeb媒体でも見出しでインパクトを残せる数字しか載せないと思った方がよい。「売上」「経常利益」「営業利益」「純利益」「前期」「今期」「前期比」、様々な数字が更新される中で最も目に留まる数字が意図的に選考される。さきのトヨタのケースでは見出しは「22年3月期最高益2.9兆円」だった。

その後発表されたソフトバンクグループの決算時は「赤字1.7兆円」であったが、翌日の株価は10%近い上昇となり、赤字というイメージとは真逆の反応を見せた。

任天堂は「6期ぶり純減益」で2022年3月、2023年3月ともに減益であったが、分割の発表もあり翌日大幅高を演じた。

また「利益」と表現されても「いつの利益」「どの利益」かが明示されていない。ニュース記事を起こす段階では、どの数字が株価判断材料になるのか特定できていないのではないかと考えられる。

 

より実践的な決算対応として

視点3 数字の確認

前期についての着地実績が想定内であるか。事前業績予想に対して公表された実際の業績との差に乖離が生じていないか。もし予想を大幅に上回っているのであれば、今期も経営環境の良好さや成長性が次期にも続く可能性がある。

また通期だけではなく直近3カ月の数値を見ることで、イレギュラーが発生していないかの確認も行う。そして今期についての会社計画を吟味しそれに対する評価を行う。

以上3つの視点を挙げたが、総じて今回の日本企業は健闘している。PER、PBRともに割安の範囲であるが故に、今が底を形成している局面という認識で相場に臨むべきではないだろうか。