ShiRaSe’s blog 元証券マンの雑記

20年の証券リテール営業を経験し、私見を雑記的に書き留めていきます。

いよいよQT

5月4日のFOMCで22年ぶりの0.5%の利上げに踏み切った。6月、7月にも0.5%ずつの利上げが規定路線であり、3カ月で1.5%の利上げは記録が遡れる1982年以降最大の上げ幅となる。2カ月で1%の利上げは1989年以来33年ぶりとのことで、記録ずくめである。

景気を過熱させず悪化もさせない中立金利の想定は3月時点で2~3%としており、7月の利上げが行われればFRBの想定する政策金利レンジに入ってくるが、問題はその時点でインフレが落ち着いているかどうか、経済環境がどのようになっているかである。

現在のFRBは米国経済が力強いと考えており、低失業率やGDP成長率から自信を強めている。つまり、まだFRBは40年ぶりのインフレに対処することの優先度を高くしており、利上げに積極的になっている。CPIが2カ月連続で、物価のピークアウトを示唆するような数字は出ているが、まだ予断を許さないところであろう。

そして利上げと同時並行で進むのがQT(量的引き締め)である。

一般的にQTとは中銀が保有する資産を減らしていくことで、保有している国債等を売却すること、償還を迎えた債券等を再投資しないことで、資産を圧縮していくことであるが、今回問題になるのは、その規模とスピードである。

国債買い入れ等を通じて市場に供給したマネーをどの程度吸収するのかが焦点となる中で、各国中銀はコロナウィルス対応で大規模な未曾有の量的緩和に踏み切っている。2020年2月から2022年4月までの期間に、FRB、ECB、日銀、イングランド銀行の主要中銀の総資産は15兆ドルから25兆ドルに増加している。マネーの膨張は過度なインフレを助長する可能性があり、バブルの発生に繋がる可能性もあるからこそ、各国中銀は金融の正常化を急ぐのである。

FRBは6月から国債等の償還に対し475億ドルを上限に再投資せず減額していく。9月には上限が950億ドルに拡大し、このペースを1年続けると、前回の引き締め(2017~2019)に比べて2倍近い金額となる。世界でも同時に引き締めが行われていくため、過去に前例のない世界的な引き締めになる。

金利だけでなく、資金量にも注視が必要である。

 

shirase.hatenablog.com

 

電力不足に考える原発

島根県知事が中国電力島根原発2号機再稼働に同意すると表明した。

地方自治体の同意を得られた原発は14基となったが、国内で現状稼働しているのは4基のみであり、建設中の3機を除いた33基のほとんどは稼働していない状況である。

同意を得られた14基のうち10基はテロ対策施設の工事や関連工事が完全に終わっていない。資源高が長期化する中で、電力需要が高まる夏、冬に安定供給が危ぶまれ原発の再稼働を求める声が大きくなっている。6日松野官房長官は記者会見で5年ぶりの「電力供給に関する検討会合」を開くと表明した。

経産省は5月にまとめたクリーンエネルギー戦略の中間整理に原発を「最大限活用」していくと明記しており、岸田総理も審査手続きの効率化、合理化に言及し、夏の参院選でも公約に盛り込んでいく方針とみられる。エネルギー自給率が低い状況下で現行の脱炭素を維持するには原発再稼働が避けて通れないということであろう。

2011年に福島原発事故が起きて以降、日本における原子力発電は特に風当たりが強い。一方で欧米に目を移すと様相が異なる。脱炭素の有力な手段という側面と、ロシア産化石燃料からの脱却という側面から、新増設計画が相次いで発表されている。イギリスでは8基の建設承認が出る見通しで、スウェーデンでは世界二例目の最終処分地建設の承認が出ている。フランスも追随する予定で、現在脱原発を維持しているのはドイツ、スペイン、イタリアといった国々である。

脱原発一色であるわけではないというのが特徴であり、原子力そのものへの議論がまだまだ必要であるが、最近の潮流は小型原子炉の導入である。

 

小型モジュール炉(SMR):出力100万キロワット超の従来型の原発に対して、三分の一程度の出力規模。低出力で保守管理がしやすく、安全性が高いと言われる。原子炉ごとプールに沈め、水の対流で炉心を冷却する設計が主流で、非常時にも追加冷却水注入や電源を必要としない。福島原発事故では電源が失われたことから炉心融解を招いた。そして使われる核燃料自体も少ないため安全性が評価されている。また小型ゆえに通常5~7年程度かかっていた好機を3年に短縮することもできる。

現在開発中のSMRは80基前後と言われており、各国で開発が加速している。中国では国有原発大手が着工に入り、2026年の稼働を目指し、ロシアは海上に浮かぶ船舶型SMRの商業運転を始めている。この2か国はSMR外交を国家戦略として今後も推進していくだろう。フランス、アメリカも積極的に開発を進める。

民間でも開発の動きが活発になっていて、日立、GEの合弁会社や、三菱重工、仏EDF、英ロールスロイス、バフェットが所有するパシフィコ―プといった大手が中心ではあるが、新興企業による開発も増えてきている。代表例はニュースケールパワーでSPACを利用し上場を果たした。ニュースケールには米エネルギー省、日本からもIHI日揮が出資をしている。既に原子力規制当局の技術審査を終えており、2029年に第一号が稼働予定である。他にも韓国のSKと提携した2006年ビルゲイツが設立したテラパワーが挙げられる。

 

日本では2011年の事故以来、原発の新設が敬遠され、専ら保守、管理、廃炉の技術が中心となっている。それに伴い過去蓄積された建設技術や管理のノウハウが風化されてしまう可能性があり、現場の世代交代が進めばそれらの知見は失われてしまう。

脱原発を明確に打ち出さないのであれば、世界のトレンドに乗り遅れないような取り組みが必要となってくるはずである。

地熱発電の可能性

2022年6月2日日経に「インドネシア地熱発電拡充」という記事が掲載された。国営石油会社プルタミナが5000億円を投じ、出力を現在の倍にするとのこと。

背景にあるのは政府が掲げる、2060年までに温暖化ガス排出をゼロにするカーボンニュートラル政策で、当面の目標は現在の再生エネルギーが占めるシェア14%を2025年までに23%まで高めるということである。持続可能な社会をという環境配慮が理念としてあるわけだが、インドネシアは60%超が石炭火力発電であり、ロシアのウクライナ侵攻以降、資源価格高騰やロシア産石炭の段階禁輸が脱炭素を経済的コストの面で誘因を与えている。

現在の地熱発電には2つの方式があるが、今回の案件は「バイナリ―方式」である。

「フラッシュ方式」:地下から取り出した高温の蒸気、熱水を使いタービンを回す。フラッシュ(減圧沸騰)した蒸気、熱水から分離器で蒸気のみを取り出すため、高温な地層に向いている。

「バイナリ―方式」:水より沸点の低い別の液体(アンモニア等)を過熱し、蒸気でタービンを回す。水と他液体、2段階の作業を行うのでバイナリ―と呼ぶ。蒸気が少なかったり、温度が低い地層での設置が可能である。

バイナリ―方式のほうがコスト高であるため全体に対してのシェアは20%強であるが、現在の世界的トレンドはバイナリ―方式に傾いており、2010年以降アメリカで導入されたバイナリ―方式はフラッシュ方式の約8倍である。

逆転が起きたのは近年の技術革新で低温での操業が可能になったことや既存施設に追加できることが開発コストを押し下げたことによる。

またバイナリ―方式のほうが環境に負荷がかからない。一度利用した熱水を地中に戻すことで地下水の減少を避けることができる。シェール開発で環境破壊が社会的問題に発展したことから、バイナリ―方式を選択する企業が増えると思われる。

 

地熱発電を利用することでのメリットは、太陽光や風力のように天候に左右されないこと、24時間発電が可能であり、枯渇の恐れなく安定供給できる点が挙げられる。特に日本のような非産油国からすればエネルギー自給率を引き上げることが期待できるため積極的に活用をしていくべきである。

調査によると、地熱資源は1位アメリカ(3000万キロワット)2位インドネシア(2779万)3位日本(2347万)となっており、環太平洋火山帯に豊富であるものの、発電設備容量でみるとアメリカ、インドネシアと続くが日本は8位となる(IEA)。

地熱発電が日本に普及しなかった背景には経済的、制度的な要因がある。井戸を1本採掘するのに数億円単位でコストがかかる(1Kmの採掘に1億円かかると言われる)。有望な地層を見つけるのも困難であるから事業リスクが高い上に、調査から掘削、発電までのサイクルが15年程度かかるため採算が読みづらい。そして熱源の多くが国立、国定公園に存在し行政との調整、または温泉地などでは湧出量減少等の可能性を地元財界と調整しなければならない。コスト、時間が莫大にかかるもかかわらず収益化が約束されない、という事情が導入を遅らせたと考えられる。

しかし皮肉にも日本企業の持つノウハウは世界でも突出しており、INPEX、JPOWER、住友商事伊藤忠といった企業による開発は世界中で行われており、設備面においても世界メーカー別シェアで東芝三菱重工富士電機を足すと70%以上ある。ただ問題は、主だった技術は「フラッシュ方式」である点である。「バイナリ―方式」シェアでみると日本企業のシェアはほぼなく、オーマット(70%、米国)、TAS(5%、米国)と約8割がアメリカ勢になっている。

急成長する「バイナリ―方式」に如何に官民が取り組むかが喫緊の課題であるが、ここにきて変化の兆しが生じている。

環境省による自然公園法の規制緩和経産省による予算盛り込み等の動きはあったが、2021年4月に小泉環境相が2030年までに既存の60ある地熱発電施設を倍増させると発言し、それ以降に続く資源価格の高騰が、取り巻く環境を好転させている。

民間部門でも動きがある、オリックスが今年度北海道で稼働させる地熱発電所はバイナリ―方式であり、同社は2017年にオーマットの株式を取得している。九州電力も3月に大分で地質資源調査実施を発表し、翌月鹿児島で地熱発電所建設に向けた準備を始めるとも発表した。前述の富士電機も「バイナリ―方式」に参入し販路を広げているし、三菱重工も2013年にバイナリ―メーカーのターボデン(イタリア)を子会社化している。

 

日本は火山大国と言われるくらいで、決して地熱発電に不向きな国土ではなく、技術・ノウハウに乏しいわけではない。巻き返しに必要なのは官民挙げての対策である。太陽光、風力等でも日本は先行していたはずであるが、後発のキャッチアップに屈したのは、長期視点での産業育成がなされなかったからでもある。地理的な優位性と、先行し培ってきた技術的な優位性が剥落する前に、抜本的な見直しと看板政策としての地熱発電をアピールしてほしいものである。

新しい資本主義に見る、岸田政権

岸田総理の掲げる経済政策「新しい資本主義」の実行計画案が公表され、6月7日に閣議決定される。

総じて岸田総理は市場に嫌われているところがあり就任後の株価下落は岸田ショックとも揶揄されていたが、最近の政策や発言を見ると非常に勉強熱心で随時アップデートをしながら市場と対話しようと試みているかに見える。

金融所得課税は行き過ぎであったが、新自由主義からの脱却という世界的な潮流や社会の変化を追随しようという意思を見せつつも、軌道修正を図り、現実的で歴代政権からの連続性が途絶えないような政策方針を掲げ、情勢の変化に臨機応変に対処している。

今回の「新しい資本主義」「骨太方針」概要

「実行計画」

  • 人への投資:NISA、イデコの拡充。非正規雇用、教育。男女賃金差公表義務、非財務情報開示
  • 科学技術:量子、AI、バイオの国家戦略
  • 新興企業:個人保証緩和、スタートアップ支援
  • 脱炭素:10年で150兆円投資、再生エネ、原子力活用

「骨太方針」

  • 安保:防衛力強化、輸出制限見直し
  • 財政:健全化

ここで過去の主要政権が打ち出した経済政策を振り返ってみると

といったところが近年の主だったものであるが、それぞれの政権を特徴づけるようなテーマとキーワードを意識的に利用し有権者にアピールしていることがわかる。今回の岸田政権におけるキーワードは「新しい資本主義」ということになるのは疑いようがない。成長戦略は当然として、分配をどう具体化するのかが焦点になっていることと思われ、就任当初、物議を醸した金融所得課税はなりを潜めている。

また変化という意味では、5月に渡英しシティーで「invest in kishida」演説が象徴的で、経済成長、投資に重点が置かれていることも指摘できる。就任当初は社会の分断や格差の拡大といった社会的問題への提起に始まったものの、就任以降の景気悪化懸念の台頭を踏まえバランスを重視するようになっている。

そして財政に関して「プライマリーバランスの2025年までの黒字化を(堅持)する」という文言を「目標に取り組む」と後退させている。米中の景気後退懸念やロシアのウクライナ侵攻による世界情勢の変化など非常に難しい局面での政権発足となってしまったことが不運としか言いようがないが、理想から現実に政策や発言を寄せてきている取り組み姿勢は評価できる。

これからの政権運営に経済と財政の両立という難しい舵取りが課される中で、夏の参院選を経て政策実行能力が問われるようになってくるはずである。

 

shirase.hatenablog.com

 

新しい資本主義下でのベンチャー育成

政府より「新しい資本主義」実行計画案が公表された。その中に新興企業への支援、創業時の個人補償不要といった骨子が示され、今後、更なる環境整備がなされていくことを期待したいところです。

 

世界的な危機が起こると革新的な企業や技術が生まれると言われることがあります。

コロナ禍以降アメリカでは創業企業数が増加しています。コロナに限らず過去のリーマンショックやITバブルの崩壊といった世界的に委縮している時期に行った投資が大きな成果を挙げ、逆境での積極的なリスクテイクが後に成功を収めたケースはテスラの黒字化やアマゾンの成長が具現しています。

一方、日本のベンチャーキャピタルへの投資は米国の1%、中国の7%程度しかないと言われています。社会の変革に取り込む企業や革新的テクノロジーを支援する制度と文化の創出が急務です。

2022年3月のユニコーン企業(企業価値10億ドル)ランキングを国別でみると、約1000社中550社がアメリカ、180社が中国で全体の70%を超えています。制度的背景や金融環境の違いがこのランキングに表れていると思われます。日本でも2018年の閣議決定「未来投資戦略2018」が策定され2020年には「成長戦略フォローアップ」が掲げられましたが、まだ成果は上がっているとは言えません。

現時点での国内最大ユニコーンはAIのプリファードネットワークス(3500億円)、DXのSmart HR(1700億円)などが有名ですが、世界首位のバイトダンス(1400億ドル)、スペースX(1000億ドル)に比べると差は大きいです。更には金額だけでなく件数においても見劣りしており、韓国の半分程度しかないという調査もあります。

 

問題として考えられるのが、ベンチャーキャピタルへの投資額の少なさです。今後さらに税制上の恩恵を拡充することや、経団連から提言が出ているような法人設立手続きの簡素化や海外人材の誘致といった施策が必要です。

そしてVC規模の小ささが遠因になっているのが、早期に上場を目指す日本の慣行です。資金調達の難しさと上場基準が緩いため、成長する前にIPOを選択することで株主の短期的な利益追求や外部からの圧力にさらされてしまい、得意分野を伸ばしユニコーンに成長する機会を逸している可能性があります(ユニコーンは未上場企業)。マザーズ時価総額2位のフリーもピーク時に6000億円の時価総額となりましたが、上場時は1000億未満でした。

そしてスタートアップ企業の課題として挙げられるのは何をターゲットに事業分野を策定するかということではないでしょうか。

ユニコーン企業はシリコンバレーに限った話でなく、アジアからも続々と誕生し上場まで漕ぎ着けています。今年上場したインドネシアのGOTO(ゴジェックとトコペディアが統合)。韓国のクーパン、シンガポールのグラブやシーといった企業が代表的です。それらの企業に共通するのは「ローカル」に徹し「グローバル」に展開するアマゾンなどとの差を明確に打ち出したことであると考えられます。世界均一に展開するのではなく、その地域の生活や文化に即した形でのローカライズをすることで現地において圧倒的なシェアを獲得していく戦略が日本にも馴染むように思われます。LINEは国内で圧倒的ですが英語圏では普及しなかったですし、メルカリも米国事業で相当に苦戦をしています。英語を母国語とする商圏をメインターゲットにする将来的なビジョンを持ちつつ、国内でのシェアを優先するという戦略が日本のユニコーン予備群には有効ではないでしょうか。

リモートワークが問う経営理念

不安定で不確実な状況に直面した時こそ企業の本質が問われる。

コロナウィルス蔓延によって、抱えていた問題や企業経営に内包された課題が表面化したということでもあるだろう。

在宅社員の管理や指導、対外的なビジネス相手とのリレーションやステークスフォルダーとの関わりかた。ビジネスモデルはもとより会社の存在意義を問い直す必要が増した。

そしてなにより重要なのは経営者のリーダーシップである。社員のモチベーションやロイヤリティは日頃から目標や目的、意義などをぶれずに一貫して伝えることで初めて浸透されていく。顧客軽視や短期利益追求といったことを日常的に行っているようでは一枚岩の組織にはならない。困難な時期ほど社会的使命、経営理念を拠り所に全員が同じ方向を向かなければならないにも関わらず、その組織運営に賛同するものがいなくなるからである。

そして精神的離反が、危機時における各人の当事者意識の低下にも繋がり、他人事のように振る舞い、コロナ蔓延を言い訳に使うような自制心の低下につながってしまう。

リモートワークに真摯に取り組む社員もいれば、サボり放題の社員もいる。それ自体は擁護できないが、そのような社員を作ってしまったマネジメントにも少なからず責任はある。なぜならば、同じ理念、目的を持った仲間を裏切れないという意識が希薄であるということでもあり、日々の業務や施策が理解を得られていないからだ。

そのような状況を看過してしまうと企業を揺るがすようなコンプライアンスの問題に発展しかねない。昨今の検査不正問題などの企業不祥事はその典型であろう。社会、顧客、仲間を思えば踏みとどまれるようなことであるが、経営理念が浸透されていないことで、歯止めがきかない状態なのであろう。コロナウィルスは様々な変化を社会に引き起こしたが、はからずも企業に対し、経営理念、ガバナンス、コンプライアンスといった根幹を再定義させようとしているようである

マイケル・バーリ(サイオン・アセット・マネジメント)の凄味。フォーム13Fより

昨秋からマーケットの波乱が続いている中でとりわけ異彩を放っているのがマイケル・バーリである。

2022.5.19日経朝刊記事「米機関投資家IT株に見切り」において久々に名前が登場してきた。大手機関投資家の四半期ごとの報告による開示「フォーム13F」において、相変わらずの分析眼で「アップルが下落した時に利益の出る‘売る権利’」を新たに購入しているとのことであった(プットオプション)。

ちなみに、SECのサイトに行けば、フォーム13Fは一般の人でも見れます。「U.S.SECURITIES and EXCHANGE COMMISION(証券取引委員会)」にアクセスし、「FILING」のタブを押す。その中で「Company filing Serarch」を。画面上方にある検索窓に「scion asset management,LLC」と打ち込めばサジェストが途中で出ます。選択すると四半期ごとの「Form13F-HR」が出ます。対象時期を選んで、「form13fInfoTable.html」を選ぶと、同社のポートフォリオの銘柄を見ることができます。現在ではメタ、アルファベット等も保有しているようです。

マイケル・バーリの名が世に知れ渡ったのは、マイケル・ルイスのベストセラー「世紀の空売り」で世界金融危機リーマンショック)前に住宅ローン市場に空売りを仕掛け莫大な利益を獲得したことが取り上げられた時ではないでしょうか(のちにマネーショートとして映画化)。それまでも類まれな分析力とパフォーマンスで米国ではマニアックな知名度はあったそうですが、世界的なビッグネームになったのはこの作品への登場からだと思います。

サブプライムローン証券化された商品の目論見書に記載された物件を丹念に調べ上げ、クレジットデフォルトスワップCDS)への投資によって、支払い延滞が起こり住宅ローン市場が崩壊すると膨大な利益が上がるポジションを組んでいました。金融危機を的中させたという著名投資家は多いですが、トレンドやブーム追随でなく独自に早期の段階から下落にかけていた投資家はそう多くはないはず。元医師で、対人関係を嫌い、自室に籠って目論見書を読み込む姿はどの投資家とも異質です。

筆者はマイケル・ルイスが好きで彼の処女作「ライアーズポーカー」1990年11月の初版本を持っているのが自慢でもあるのですが、「世紀の空売り」に記述されたバーリのエキセントリックな言動に魅了され、ニュースにその名前が出るのを楽しみにしていました。

近年の話題といえば、2021年テスラのプットやARK ETFのプットを大量購入したことでARKのトップであるキャシー・ウッドとツイッター上で論戦をしていたことが挙げられます。

両者は極端に投資哲学が異なり水と油の様な関係ですが(ファンダメンタルズかイノベーションか)、現状の相場水準においてはバーリに軍配が上がったのではないかと言えます。

今回のフォーム13Fからは、ヘッジファンドの苦戦が明らかになってきており、ブリッジウォーターのGAFA売りやタイガーファンド系のネットフリックス売却など、グロース株離れが顕著です。今後もファンダメンタルズ重視のバーリの動向は注目に値すると思われます。